『君の名は。』テレビ的視点で解釈する新海誠・メガヒットの法則
#新海誠 #深田憲作 #企画倉庫 #アレのどこが面白いの?~企画倉庫管理人のエンタメ自由研究~
放送作家の深田憲作です。
「企画倉庫」というサイトを運営している私が「あの企画はどこが面白いのか?」を分析し、「面白さの正体」を突き止めるための勉強の場としてこの連載をやらせてもらっています。
今回のテーマは「新海誠監督のアニメーション映画『君の名は。』について」です。
昨年公開された、新海監督の新作映画『すずめの戸締り』は大ヒットを記録し、11月の封切りから現在までも、公開している映画館があるほど。
そんな新海監督の名を世に知らしめた作品といえば『君の名は。』ですね。この映画は、企画という目線で見た時にも非常に面白い作品なので本コラムで書いてみたいと思いました。
この作品の1番の企画性は「男女が入れ替わる」ところ。読者のみなさんも認識されていると思いますが、人間の中身が入れ替わるマンガ・アニメは『君の名は。』以前にもいくつもありました。『君の名は。』が秀逸だったのは「男女が“時空を超えて”入れ替わっているところ」です。
『君の名は。』新海誠監督が描き続けてきた”男女の距離”が時空をも超え大ヒット
足掛け二カ月にわたって続いた“るろ剣祭り”も無事終了。邦画アクション映画の未来を切り開いたと言われるるろ剣の次は、日本のアニメーション映画の新時代の幕開けとなった新海...主人公の三葉と瀧は3年の時間軸のズレがあり、瀧は3年前の過去に、三葉は3年後の未来に入れ替わっています。この時間軸のズレがこの作品のドラマ性を作り上げていました。物語後半、瀧は三葉と入れ替わった際、彗星の落下によって3年前に命を失ってしまった三葉を救うために、奮闘するわけです。つまり、『君の名は。』は、過去に行って未来を変えようとする『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の要素も入っているわけです。
この「入れ替わり」と「タイムスリップ」の2つの要素を掛け合わせたことが、同作を怪物作品に押し上げた大きな要因ではないかと思います。
テレビのバラエティ制作に関わる人間も「定番の企画やシステムに何をかけ合わせれば斬新で面白い企画が出来上がるか?」ということに日々思考を巡らせています。
例えば、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)は「雛壇トーク」という定番のシステムに〇〇芸人といった「くくり」という要素を掛け合わせたことで、それまでに無かったトーク番組となったわけです。テレビ以外でいうと、近年のゲーム界で大ヒットを記録した『ウマ娘 プリティダービー』は「競馬ゲーム」に「萌えキャラ」を掛け合わせた見事な企画ですね。
企画指南術の本などで「企画の才能」について語られる時、既存の要素を組み合わるセンスに秀でた者が、企画者として才能があると言われます。その意味で、新海監督は企画者としての才能をお持ちの方なのだと思います。
しかし、当然ながらそう簡単に名企画は生まれるものではありません。着想時点では「この組み合わせは斬新で面白そう」と思っても、いざ具現化していくところで無理や矛盾が判明して、企画として成立しないことがほとんどです。
『君の名は。』が凄いと思うのは、「入れ替わり」と「タイムスリップ」の掛け合わせを思いついただけでなく、それを絶妙なバランスでストーリーに落とし込んでいるところだと思います。
厳密に言うと『君の名は。』にも矛盾に感じる点はいくつかあります。
しかし、ほとんどの視聴者にはその矛盾を感じさせていないし、ほとんどの視聴者にとって理解しやすいストーリーになっています。多くの視聴者が気になってしまう矛盾点は取り除かなければいけないし、逆に全ての矛盾点を解消しようとすると話が複雑化して、視聴者の理解が及ばなくなってしまう。このバランスを整えるのは至難の業です。この作品の脚本作りは、緻密で繊細で気が遠くなるような思考との戦いがあったに違いありません。
それを成し遂げた新海監督並びに製作スタッフの方々には頭の下がる思いです。それでは今日はこの辺で。
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