『ブラッシュアップライフ』バカリズム脚本の見事なミステリー構造と意外な伏線
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新作ドラマが出揃ったが、頭1つ抜けて面白いのがバカリズム脚本の『ブラッシュアップライフ』だ。日曜夜10時30分から日本テレビ系で放送されている本作は、33歳の近藤麻美(安藤サクラ)が主人公の地元系タイムリープ・ヒューマンコメディだ。
麻美は実家で家族と暮らしながら、地元の市役所で働く、代わり映えのしない日々を過ごしていた。ある日、麻美は幼なじみの門倉夏希(夏帆)、米川美穂(木南晴夏)と会ってご飯を食べる。その後、3人でプリクラを撮り、ラウンドワンでカラオケをしながら同級生の噂話に盛り上がる。だが、コンビニ前でトラックに跳ねられ、あっけなく命を落とす。
その後、麻美は真っ白な空間で目を覚ます。そこは死後案内所で、受付係(バカリズム)の前に立った麻美は書類の手続きをするが、自分の来世がグアテマラ南東部のオオアリクイだと知らされ、ショックを受ける。しかし、今世をやり直して徳を積めば、再び人間に生まれ変われると知った麻美は、もう一度、生まれた場面から人生をやり直そうと決意する。
お笑い芸人として高い評価を受けているバカリズムだが、近年は映画やテレビドラマの脚本でも高い評価を受けている。彼のドラマの面白さは大きく分けて2つ。
1つはSF的アイデア。例えば、出世作となった『素敵な選TAXI』(カンテレ・フジテレビ系)は、人生の分岐路に戻れるTAXIに乗った人々が、何度も人生をやり直す姿を描いたドラマだった。バカリズム脚本のドラマはどれも特殊な状況と選択肢が最初に提示され、そのルールの中でどうやって状況を攻略していくかを、主人公が考える姿が描かれる。これは「ゲーム的な物語」とも言い換えることができるだろう。
もう1つの面白さは、自然な会話やあるあるネタを駆使した日常劇。その筆頭が、バカリズムがOLに扮して書いたBLOGを映像化した『架空OL日記』(日本テレビ系)だ。
本作は銀行で働くOLたちの日常のやりとりを淡々と描き、自然な会話劇が高く評価された。ただ、本作の主人公のOL・升野を演じるのは、男性のバカリズム自身で、そのことについてドラマ内では言及されないため、ギャグともホラーとも取れる奇妙な違和感が常に漂っている。この奇妙な違和感も、バカリズム脚本の大きな特徴だ。
今回の『ブラッシュアップライフ』には、人生をループしてやり直すというSF的アイデアと、淡々としたリアルな日常を丁寧な芝居で見せるというバカリズムが得意とする作風がふんだんに盛り込まれている。
面白いのは、この2つの要素が有機的に結びついていること。例えば、第1話の序盤で麻美たちが喋っている、ポケベルや公園前にあった公衆電話についての話は、初見ではどうでもいい世間話に聞こえるのだが、保育園の友達だった森山玲奈ちゃんのお父さんと保育園の先生の不倫を阻止しようとする際に麻美はその時の会話を思い出し、公衆電話からポケベルで「フリン シタラ バラス」とメッセージを送ることで、不倫によって玲奈の家族が離散することを阻止する。
物語は現在3話まで終了しているが、1話冒頭で麻美が妹や友達としていた、一見どうでもいいやりとりに思える会話が、後から意味を成す場面が何度も描かれる。このミステリー的な構造は実に見事だ。
人生をやり直した麻美が体験する90年代前半から現在(2023年)という時代の描き方も絶妙である。たとえば90年代後半なら、プリクラ、たまごっちといった、その世代を生きた人にはたまらない懐かしい小ネタが節々に挟み込まれているのも本作の面白さだ。
中でも本作を制作している日本テレビの映像は多数登場。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』『ズームイン!!朝!』といったテレビ番組、そして第1話の最後ではドラマ『ポケベルが鳴らなくて』の主題歌だった国武万里の「ポケベルが鳴らなくて」が流れる。
麻美たち3人はドラマ好きで『ナースのお仕事』(フジテレビ系)、『恋に落ちたら~僕の成功の秘密~』(フジテレビ系)、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)といったドラマの名前が会話の中で登場する。これも無意味なやりとりに聞こえるのだが、テレビドラマの中で他のドラマについて言及する場面がこんなに多い作品も珍しい。おそらく、これも後々効いてくる伏線なのだろう。
麻美の人生は現在3周目。第3話では、再び33歳になった麻美は以前トラックに轢かれたポイントはうまく避けたが、自転車に乗っていてドラマ撮影中の前野朋哉に気が取られた隙に車と衝突し事故死してしまう。
案内人の話によると、人にはそれぞれ「亡くなりやすい時期」があるとのことだが、一方で麻美を遠くから見つめる謎の女(水川あさみ)も登場し、謎が謎を呼ぶ展開となっている。
細部まで練り込まれた脚本なので、話が進むにつれて、他愛のないやりとりが実は意外な伏線だったということが次々と明らかになっていくのではないかと思う。繰り返し観るほど発見のあるドラマである。
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