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バフィー吉川の「For More Movie Please!」#1

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』この物語は、映画業界の性暴力告発劇だけには留まらない

バフィー吉川の「For More Movie Please!」
第1回目は『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』をget ready for movie!

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』この物語は、映画業界の性暴力告発劇だけには留まらないの画像1
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

 2017年に起こった、ハリウッドの性暴力問題ーー事件の背景にあった知られざる出来事をまとめたノンフィクション本『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』を原作にした映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が、1月13日から公開中だ。

『ジャッキー・ブラウン』(97)や『キル・ビル』(03)などのクェンティン・タランティーノ作品から、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに至るまで、90年代~10年代にかけて多くのヒット作を手掛け、アカデミー賞などの賞レースの常連でもあった名プロデューサー兼ミラマックスの創設者、ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力告発は全米を震撼させ、ハリウッドニュースに疎い日本であっても連日報道されるほどであった。

 これに端を発し、世界中で「#MeToo」運動が起こったことは記憶に新しい。というより、日本でも映画業界での性暴力、ハラスメントが告発されるなど、現在進行形で続いている問題と言ってもいいだろう。

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』この物語は、映画業界の性暴力告発劇だけには留まらないの画像2
(左)キャリー・マリガン、(右)ゾーイ・カザン

 17年当時、ワインスタイン事件の真実を追い求めようとした2人の女性記者の姿を詳細に描写した本作。『それでも夜は明ける』(14)や『スイング・ステート』(21)など、アメリカの暗部を描いた作品を扱うことでもお馴染みのブラッド・ピットが製作総指揮を務めたことでも話題となり、ゴールデングローブ賞をはじめとする数々の映画賞でも注目されている作品だ。

 主演のキャリー・マリガンやゾーイ・カザンの演技も素晴らしいが、パトリシア・クラークソン、そしてなにより“本人役”で出演した、ある女優の勇気を称える作品ともいえるだろう。

【ストーリー】
ジョディとミーガンは共にアメリカ大手新聞社の一つ、ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道記者。大統領選挙から職場環境まで数多くの問題を調査報道し実績を残してきた。そんな中、ハリウッドから大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの数十年に及ぶ権力を行使した性的暴行の噂を聞きジョディは調査へと乗り出す。ジョディは産休中で産後うつ気味のミーガンと共に、様々な嫌がらせや生命を脅かされる目にあいながらも懸命に調査を続けるが――。果たして、自身の未来と引き換えに秘密保持契約と多額の示談金で口を封じられた女性たちを説得し記事で告発することはできるのか……。

 

ワインスタイン告発だけではない、性加害者を守る社会のシステムに挑む人々のチーム戦

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 FOXニュースの会長ロジャー・エイルズ、司会者のビル・オライリーの性暴力告発を描いた『スキャンダル』(19)や、リミテッドドラマ『ザ・ラウデスト・ボイス-アメリカを分断した男-』(19)という作品があったが、今作は時系列的にはその直後となる物語であり、冒頭でもビル・オライリーのニュース映像が映し出されている。

 それに加えて16~17年という年は、ドナルド・トランプの度重なるセクハラ疑惑と発言の数々もあって、そういった性加害問題に対して敏感になっていた時期でもあり、勇気を出して声をあげた女性たちもいた。

 ところが、そんな疑惑だらけのトランプが大統領に当選してしまい、声をあげた女性は二次被害にあってしまう始末。そのことからも、表面上では「セクハラはいけない」とか「女性の人権を~」とか言いつつも、結局は権力を持つ者こそがこの世界を制すという証明にもなってしまったのだ。

 法や社会のシステムが、結果的に性暴力の加害者を守っているという真実にぶち当たり、闘うことに疲れてしまった人たちもいて、今作の主人公でキャリー・マリガン演じるミーガン・トゥーイーも、当初はそのひとりであった。

 ジャーナリズム魂を賭けて暴いたはずのトランプの性暴力が闇に埋もれてしまったのだから無理もないだろう。しかし、逆にそんな理不尽な現状に立ち上がった人々もいる。それが今作の中でも重要人物ともなってくる、女優のアシュレイ・ジャッドである。アシュレイは、ワインスタインに性暴力を受けた当事者でもあった。そんなアシュレイが今作に“本人役”で出演しているということにも、大きな意味があるのだ。

 今作が描いているのは、ハーヴェイ・ワインスタインという男の性暴力問題騒動だけではない。そういった人物を生み出してしまった、男性優位主義の映画業界の現状を炙り出すだけに留まらず、権力者が常に優位に立つような法や社会のシステムの在り方について、つまり「仕方ない」と権力に服従してしまうのではなく、「おかしい」ことを当たり前に「おかしい」と言えることの大切さを描いているのだ。

 それでもほとんどの場合、希望は打ち砕かれてしまう世界かもしれないが……何もしなければ、何も変わらない。実際にMeToo運動の大きな引き金となったのだから、声をあげることには意味がある。

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