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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 安藤サクラの「人生周回者あるある」

『ブラッシュアップライフ』安藤サクラの「人生何周もしてる人あるある」と倫理観

受付係(バカリズム)「あとは、来世ではなくて今世をやり直すか、ですよね」

 ロバート・秋山はいろんな職業に扮するけれど、実際は芸人以外に俳優を少しやっているぐらいだ。一方、芸人でありながら脚本家としても活躍しているのがバカリズムである。そんな彼が脚本を務めたドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)が現在放送されている。

 主人公は地元の市役所で働く33歳の近藤麻美(安藤サクラ)。昼間は職場の同僚と食事をしながら上司の愚痴を言い合い、仕事帰りには同級生の門倉夏希(夏帆)や米川美穂(木南晴夏)と食事に行ったりする、そんな何気ない日常から成る彼女の人生は、ある日、唐突な事故で終わりを迎えてしまう。目を開けた麻美がいたのは死後の世界のような真っ白な空間。そこで彼女は死後案内所の受付係(バカリズム)に言われる。あなたの来世はグアテマラ南東部のオオアリクイです。だが、麻美は新たな生に難色を示す。そんな彼女に受付係は別のコースを紹介する。

「あとは、来世ではなくて今世をやり直すか、ですよね」

 どうやら、希望する生命に生まれ変わるには“徳”を積まないといけないらしい。麻美は必要な“徳”をためるため、もう一度今世をやり直すことになった。彼女は人生をブラッシュアップして、再び人間として生まれ変わることができるのか。それとも――といった形でいまのところ話は進んでいる。

 今作のこれまでの特徴のひとつは、作中にあふれる懐かし要素だ。1990年代から2000年代にかけてのテレビ番組や音楽、ギャグやアイテムなどがたくさん登場した。15日の第2話でいえば、『ポケベルが鳴らなくて』(国武万里)、福留功男時代の『ズームイン!!朝!』(日本テレビ系)、白いたまごっち、『HEY!HEY!HEY!』(フジテレビ系)、SPEED、『ビーチボーイズ』(同前)、『ナースのお仕事2』(同前)、シール帳、プロフィール帳、『GOOD LUCK!!』(TBS系)、『伊東家の食卓』(日本テレビ系)、『NANA』(矢沢あい)、折りたたみ式の携帯電話、iモード、携帯の光るアンテナ、ゲームボーイアドバンス、『逆転裁判2』(カプコン)、ディープインパクト、iPod mini、mixi、クールポコ。、『ポリリズム』(Perfume)、エド・はるみ、『イケナイ太陽』(ORANGE RANGE)、『粉雪』(レミオロメン)――。

 そんなあれこれが画面の隅々に次から次に出てくる展開は、同時代を生きてきた者としてとても懐かしみを覚える。脳をひっくり返してもう1回棚に整理し直しているような、そんな心地よさもある。フジモンこと藤本敏史(FUJIWARA)のガヤをずっと聞いているような感じもする。

 また、構成もスマートで気持ちがいい。1周目の人生で交わされていた仲良し3人組の会話に出ていた話題が、2周目の人生で見事に回収されたりする。人生の周回を越えた伏線回収。2周目の人生では幼少期に能力の出し惜しみをするみたいな点は、なんだか「人生何周もしてる人あるある」みたいでもあって笑ってしまう。なぜそれを「あるある」と思ってしまうのかはわからないが。

 倫理学のテキストにある問いみたいなものにふいに直面する感じも面白い。人生2周目の麻美は、成人式が終わったあとに同級生たちとラウンドワンでカラオケをする。そこで福ちゃんこと福田俊介(染谷将太)は、みんなに「プロよりうまい」と歌声を褒められる。ミュージシャンになる夢を語っちゃったりする福ちゃん。だが、麻美は1周目の人生で、その後の福ちゃんが夢破れて地元に帰り、掛け持ちバイト生活を送っていることを知っている。この日、自分たちが無責任に福ちゃんの背中を押してしまったのではないか。ここで止めれば彼には別の人生があるのではないか。彼の人生を好転させれば自分も“徳”を積めるかもしれない。そう思った彼女は福ちゃんを説得しようとする。

 が、麻美は説得を思いとどまる。地元に戻った福ちゃんがその後、バイト先の女性との間に子どもを授かり、父親としての人生を送っていることも知っているからだ。ここでミュージシャンとしての夢を止めてしまうと、その女性とも、子どもとも出会えない。そんなことをしてしまっていいのか。麻美は説得を思いとどまり、それほどうまくない福ちゃんの歌に手拍子を叩きはじめるのだった。

 彼女は他人の主体的な選択には直接口を出さない。が、当人の選択の外にある理不尽――保育園時代の友だちが転園するきっかけになったその子の父親の不倫や、中学時代の教師が職を辞さなければならなかった痴漢冤罪――には介入する。積極的に首を突っ込みに行くわけではないが、出会ってしまったら干渉する。そんな基準でなされた介入が“正しい”のかはわからないし、ましてや“徳”の観点から見てどうなのかは判断できないが、筋の通った立場ではあるだろう。物語から透かし見えるそんな倫理観は、脚本や演出、演技のドライさとも調和してる。

 それにしても、である。生き直しをしているのは彼女だけなのだろうか。死後にこんなコースが用意されているのなら、他にも人生を周回している人がいてもよさそうだ。そもそも麻美の1周目は本当に“1周目”だったのか。と、いろいろ謎も浮かぶわけだが、そのあたりの疑問はひとまず飲み込んで楽しみたい。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2023/02/27 18:46
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