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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 2022年フィメールラップ総括
連載「クリティカル・クリティーク VOL.11」A SIDE

2022年フィメールラップ総括――表現の自由と可能性の拡張(後編)

前衛的なサウンドの採用とプロデューサーとの融和

Ⅵ. アイドルとラップの2022年

 アイドルとラップというテーマは、2022年に大きな転換期を迎えた。

 筆頭は、K-POPに影響を受けた次世代グループ・XGの出現である。

 2曲しかリリースがなかったものの、J.I.DやRosaliaをビートジャックした[XG TAPE #2]GALZ XYPHERは前代未聞の、グローバルヒットとなった。K-POP由来のきびきびしたラップにヒップホップのニュアンスを織り交ぜたスタイルは、意外にも他に類のない新しい感触をまとっている。

 対して、アイドルラップの最前線を張ってきたlyrical schoolは旧体制での集大成となる傑作『L.S.』を発表、アイドルラップ史に残る野音公演を最後にひとつの区切りをつけた。“ヒップホップの背中を追いかけラップする”というスタンスは、XGのトップダウン方式とは異なるボトムアップ方式である。これら突き抜けた両スタイルのグループによって、今アイドルのラップ/歌唱は過去に見ないほどの多彩さを誇っている。

 その並びには、才気あふれる作家陣とクオリティ高い作品を作り上げたFAKY『F』やRYUTist『(エン)』なども位置づけられるだろう。苺りなはむが「存分」や「楽煙」といった曲で存在感を見せ、野外フェス〈心拍数15Q〉を開催したことも大きなトピックだ。

Ⅶ.男性アーティストのアプローチ

 最後に、ここまで論じてきたような動きと創発しあった、優れた男性アーティストを数名挙げて本稿の結びとしたい。

 まずは、プロデューサーのケンモチヒデフミ。

 新生・水曜日のカンパネラはもちろんのこと、ばってん少女隊の「さがしもの」、戦慄かなの「Iceblink」、femme fatale「ジェットコースター」、iri「Roll」等の曲で、ジューク/フットワークからジャージークラブまでの華美なビートにさりげない押韻による歌唱を強引に接続させる離れ業をやってのけた。

 ほかにも、Kamuiが『YC2.5』で、yanagamiyukiが一連の作品で試みているボーカロイドを駆使したアプローチは、自身の肉体を女性の声とともにフィクション世界へと漂流させる点で、前述のYoyou「tutumu」とも共振するニュアンスを放っている。

 そして、Minchanbaby。多くの女性アーティストとのコラボレーションを実現してきた彼が、2022年にY2Kへの批評眼を輝かせたポップパンク・アルバム『FALL OUT GIRL』をドロップした意義は大きい。

 重盛さと美「FRIEND」やCharlu「黙LELE」などY2Kのフィールをトラックに込めた佳曲が多かった2022年だが、それらに対するMinchanbabyからの渾身の回答と捉えるべきであろう。

 女性の先鋭的なラップ/歌唱による事象を拾っていくことで、これほどまでに充実した動きが観察できる。

 これらはすべて、2022年に起きた表現だ。2017-2018年を起点に完成された試行錯誤と、次なる実験の萌芽。本連載では、今後もオーバ―グラウンド/アンダーグラウンド問わず、この鮮烈な動きの行方を追いかけていく。

▲前編はこちら

つやちゃん(文筆家/ライター)

文筆家/ライター。ヒップホップやラップミュージックを中心に、さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆。雑誌やウェブメディアへの寄稿をはじめ、アーティストのインタビューも多数。初の著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)が1月28日に発売されたばかり。

Twitter:@shadow0918

つやちゃん

最終更新:2023/01/26 20:00
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