『思い出のマーニー』は“宮崎駿はずし”のためだった?
#ジブリ #金曜ロードショー #しばりやトーマス #金ロー
日本テレビ系『金曜ロードショー』、”新年のスタートはジブリから”ということで2週連続スタジオジブリの最終章は、2014年に公開された『思い出のマーニー』。
前年度には宮崎駿の『風立ちぬ』、高畑勲の『かぐや姫の物語』と巨匠二人の作品を立て続けに公開したジブリが、翌年に送り出したのは宮崎も高畑も制作に関わっていない、ジブリの次代を担う存在として抜擢された米林宏昌監督作品。2010年に『借りぐらしのアリエッティ』で監督に起用されており、ジブリでは二度目の監督作だが、巨匠二人の大作の後で、しかもジブリ長編20作目の監督として起用された人材だ。
北海道に暮らす12歳の少女、杏奈は人づきあいが苦手な上、持病の喘息があり、友達はいなかった。両親は小さいころに亡くなっており、祖母もすでに他界し、血のつながっていない頼子が里親として杏奈を育てているが。ある事情から彼女と距離を置き、「おばちゃん」と呼んでいる。
血のつながりのある人間はみな亡くなり、ひとりぼっちの彼女をめぐって親戚同士が押し付け合うのを目の当たりにしており、世界には目に見えない魔法の輪があってみんなは内側、自分が外側にいるから誰とも仲良くできないと思い込んでいる。家にも外にも居場所がない、生き辛くてたまらない女の子だ。ジブリヒロインでここまで生きづらい子がいただろうか?
杏奈は夏休みの間だけ喘息の治療のため、頼子おばちゃんの親戚夫妻のところで暮らすことになるが、それすらも「厄介払いされた」と思っているので常に浮かない表情。
杏奈は湿原に建つ「湿っ地屋敷」と呼ばれる廃墟じみた屋敷で金髪碧眼のマーニーと名乗る少女と出会う。マーニーはメイドや世話係の婆やに囲まれて暮らす裕福そうな家のお嬢様だが、たびたび屋敷を脱け出して冒険する癖があり、「屋敷には居場所がない」というマーニーをまるで自分のようだと感じた杏奈は仲良くなる。
マーニーは突然姿を消し、ある日湿っ地屋敷には東京から来たという一家が引っ越しをしていた。なぜ? マーニーが住んでいるのに?
引っ越してきた一家の娘、彩香は杏奈を見て「あなたがマーニーでしょ?」と尋ねる。彩香は家で見つけた古びた日記にマーニーのことが書かれており、以前屋敷から杏奈が出てくるのを見たため、勘違いしたのだった。しかし日記の内容はマーニーと杏奈が体験した思い出が綴られていた。マーニーは現実から逃避するために杏奈が脳内で作り出した幻、イマジナリーフレンドだったのか?
このような話の流れからもうかがえるように、本作は従来のジブリ作品にはなかった、異質の印象が強い。
『思い出のマーニー』は心を閉ざした少女が金髪碧眼の少女と出会い、二人だけの冒険の果てに過去の出征の秘密などが解き明かされるという、ミステリー要素を含んでおり、何より杏奈とマーニー、二人のヒロインの奇妙な友情はどちらかというと愛情に近いものさえ感じられる。
国民的アニメ作品を生み出してきたジブリの過去作品では、少年と少女(男女)の出会い、友情が多く作られてきたが、『思い出のマーニー』は女性同士の友情、愛情を描く「百合」ものを想起させる。映画のキャッチコピーは「あなたのことが大すき。」だが当初の予定では
「ふたりだけの禁じられた遊び」「ふたりだけのいけないこと」
という大胆なキャッチコピーが考えられていたという。
このようなキャッチコピーやダブルヒロインものにしたことについて、ジブリの鈴木プロデューサーは当時、「宮崎監督は引退を宣言しながらジブリに毎日顔を出し、すぐ仕事に口出しをすると。監督はいつも男女の物語をやっていたので、女性同士の物語なら口を出さないだろう」と、冗談めいて語っている。
ジブリの次代の作品として、今までやってこなかった百合ものを匂わせたのは、新しい時代のジブリというイメージにしたかったのかもしれない。
さらに杏奈とマーニーのヒロインは世間に居場所がなく、共に「あなたの方がずっとまし。私はあなたになりたかった」と思っている、とにかくここまで生き辛い様子なのもジブリにしては珍しい。
原作はイギリスの古典児童文学だが、海外の児童文学によくある不幸な生まれ、境遇に翻弄される少年少女ものの王道だが、次代のジブリを担う作品のヒロインがここまで生き辛いのは、会社内の事情も影響されているとはいえないだろうか。
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