藤ヶ谷太輔の実験的映画『そして僕は途方に暮れる』…徹底的な現実逃避の末に待つリアリティ
#映画 #藤ヶ谷太輔
映画『愛の渦』や『娼年』などで知られ、社会の暗部を浮き彫りにする作風が特徴的な劇作家・三浦大輔氏の同名舞台を映画化。舞台同様に三浦大輔氏が脚本・監督を担当し、藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)が主演する映画版『そして僕は途方に暮れる』が、1月13日より公開される。
藤ヶ谷は『MARS~ただ、君を愛してる~』(2016)以来、約7年ぶりの映画出演となるが、舞台で演じ慣れたキャラクターをそのまま演じているからか、スクリーンからは妙な緊張感が伝わってくる。
とにかく人と話し合いをしたくない。真剣に物事を考えたくない。ただそこから逃げ出したい。揉め事恐怖症、現実逃避気質な主人公がとにかく逃げて、逃げて、逃げまくる。
共演には、『もっと超越した所へ。』(22)に続き、またしてもヒモ男に振り回される役を演じた前田敦子や、毎熊克哉、野村周平。それぞれが普通にいそうなキャラクターを演じることで、ファンタジー的ではなく、現実社会の延長線上の物語であるという説得力を加えている。
また、豊川悦司が、現実から逃げた象徴でもある、妙な父親役を演じているのも注目すべき点だ。言ってることは理不尽で不良的ではあるが、トヨエツは『子供はわかってあげない』(21)で演じた元カルト教祖という変な役を演じても、不思議な説得力がある。
【ストーリー】
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、長年同棲している恋人・里美(前田敦子)と、些細なことで言い合いになり、話し合うことから逃げ、家を飛び出してしまう。その夜から、親友・伸二(中尾明慶)、バイト先の先輩・田村(毎熊克哉)や大学の後輩・加藤(野村周平)、姉・香(香里奈)のもとを渡り歩くが、ばつが悪くなるとその場から逃げ出し、ついには、母・智子(原田美枝子)が1人で暮らす苫小牧の実家へ戻る。だが、母ともなぜか気まずくなり、雪降る街へ。行き場を無くし、途方に暮れる裕一は最果ての地で、思いがけず、かつて家族から逃げていった父・浩二(豊川悦司)と10年ぶりに再会する。「俺の家に来るか?」、父の誘いを受けた裕一は、ついにスマホの電源を切ってすべての人間関係を断つのだが……。
現実逃避の行き着く先とは……
夢を抱いて上京したものの、大学卒業後は鳴かず飛ばず。気づけば歳もそれほど若くない。バイトで食いつなぐ日々がいつしか日常になってしまい、振り返っても何も成し遂げていない……。
社会のせいだ、環境のせいだ、親のせいだと八つ当たりしたところで現実が変わるわけでもない。そんな自分を受け入れるしかない。しかし、受け入れたくない。そんな狭間で葛藤し続ける人間のほうが、現代社会においては圧倒的多数派ではないだろうか。
決して現実逃避自体が悪いことだとは思わない。ストレス社会、理不尽な社会システムから、一時退却することだって大事なはずだ。映画やテレビだって現実から少しでも離れられるものとして機能しているわけなのだから、もともと人間が少しの間、現実から目を逸らすことは、大切な行為であるはずだ。
ところが、逃げてしまうと失うものが多くあるのが現実社会。愛や友情、信用など、人間関係という束縛が逃げ出すことさえ許さない環境を作り出しているが、そんなものさえも断ち切って、現実逃避をし続けたら、人間はどうなってしまうのだろうか……。いつかは行き止まりにたどり着くのか、それとも新たな道が切り開けるのか? 行ってみないとわからないけど、行ってみたくはない。
実家から逃げて都会で暮らしていても、逆に逃げてきた場所に戻っていくのも皮肉なもので、気付けば軽蔑していた父と同じになる一歩手前。
今作は現実逃避をし続けた結果、どうなってしまうのか、そんな終着点と代償を描いた、共感できる部分も多い作品ではある。しかし、決して同じことをしたくないとも感じさせる、実験的でもある映画だ。
『そして僕は途方に暮れる』
脚本・監督:三浦大輔
出演:藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平、香里奈、原田美枝子、豊川悦司ほか
原作:シアターコクーン「そして僕は途方に暮れる」(作・演出 三浦大輔)
製作:映画「そして僕は途方に暮れる」製作委員会
制作プロダクション:アミューズ 映像企画製作部 デジタル・フロンティア
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/soshiboku/
Twitter:@soshiboku_movie #そし僕 #そして僕は途方に暮れる
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