渡部建に無名の芸人も…“芸人本”がやたらブームになっている業界事情
#本 #芸人 #YouTuber
錦鯉の『くすぶり中年の逆襲』(新潮社、2021年)、渡部建の『超一流の会話力』(きずな出版、22年)、安田大サーカス・クロちゃんの『日本中から嫌われている僕が、絶対に病まない理由 今すぐ真似できる! クロちゃん流モンスターメンタル術30』(徳間書店、23年)などなど、近年、芸人による著作は数多く、いわば“芸人本ブーム”の様相を呈している。
タレント本というのはもともと一つのジャンルとして成立してはいるが、その内容は概ね次の4つに分類できるだろう。
【1】「暴露(告白)系」
【2】「自叙伝(信念)系」
【3】特徴が生きるヒントになるもの(美容、メンタルの持ち方など)
【4】本人が本業以外で得意とする技や知識(料理や歴史など)
【1】の暴露本は、古くはジェームス三木のプライベートを赤裸々に放出した山下典子『仮面夫婦 私が夫と別れる理由』(祥伝社、92年)。そのほか、郷ひろみと元妻・二谷友里恵の暴露本合戦などが知られる。これらは明らかに“裏側を知りたい”という読者心理を狙ったもので、それなりに話題になるし、売れ行きも見込める。
【2】の自叙伝としては、松本人志『遺書』(朝日新聞出版、94年)は大きな話題になったし、飯島愛が過去を綴った『プラトニック・セックス』(小学館、00年)はセンセーションを巻き起こし、映画化もされた。麒麟・田村の『ホームレス中学生』(ワニブックス、07年)もミリオンセラーだ。“成功者の軌跡”はもちろん、“苦労したけどがんばって夢を追った俺”は、わかりやすい。また、貧困ネタも鉄板だ。
【3】はノンスタイル井上のポジティブシンキング系、【4】は松村邦洋の歴史系、滝沢カレンの料理本など多岐にわたる。“明るいメンタルを保つ秘訣”系は、それが売れようと売れまいと、いつの時代も発信されるもの。歴史や料理にしても、タレントが参入することで、そのジャンルが盛り上がる(気がする)なら、ありがたい話ではあるだろう。
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とはいえ最近、芸人本の出版ペースが加速している印象がある、と指摘するのは、とあるタレント本ウォッチャーだ。
「なかには『お前、誰やねん』というものもある。例えば、昨年出版された『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)は、偏差値70の超進学校→慶応卒で吉本興業所属、20年以上バイト生活だという40代の芸人・ピストジャムが書いたものでした。無名であることは本人が重々承知していますが、そのバイト遍歴が常軌を逸していることから、周囲からそそのかされたものらしいです。
ぶっちゃけ、本を出したところでめちゃくちゃ話題になったり、いきなり売れたりするわけでもありません。労力に対して、儲かるとも言い切れないのが今の時代。正直、書店に行ってみれば、レジ前にうず高く積まれているのはYouTuberの本なので、無名芸人の本よりもYouTuberの本のほうが、書店的には“引き”がある、ということを突きつけられます。実際、YouTuberのヒカルが昨年9月に出した『心配すんな。全部上手くいく。』(徳間書店)は、累計25万部も売れたそうですから」
ではなぜ、芸人は本を出すのか。そこには複合的な理由がある。
1)自分で「発信」できる
発信するならSNSでもいいじゃない、という向きもあるだろうが、「PRとセットにできる」のが大きな強みだ。YouTubeを開設しても、見向きもされないかもしれない。再生回数が可視化される世界では、どんなに再生回数が少なかろうと続けるメンタルも必要だ。
でも、本を出せば、それが「パンフレット」として、売り込み資料になる。“待ち”の状態では番組に呼ばれなくても、本を出せばそれを名刺代わりに挨拶にいくきっかけになるのだ。
2)取り上げてもらいやすい
1)に繋がるが、「こんな本出したので…」といえば、番組側としても「その人を番組に呼ぶ理由」になる。かつ、“宣伝”扱いなので、出演料はタダという交渉も可能だ。正直、制作側はどこも謝礼をそんなに払えない、という懐事情を抱えているのが実情だ。
さらにいえば、出版社側の事情もある。ある出版社社員の話。
「本は、今や2~3万部も売れればいいほうです。概ね、初版は4000部~5000部ほど。1冊の本を長く売る時代ではなくなっていて、まるで雑誌、ムックのように本を出す感じです。もちろん小説なんかは、長く読まれるようなものを目指して企画するものもあります。ただやはり、そういったものはすでに売れている人、大御所など知名度がある人にオファーをすることが多いです。
結局、人々の興味の対象がすぐに移り変わる今の時代、本も入れ替わりが激しいので、社内でも常に新刊の企画を立てている状態です。というのも、よほどの名作や、ドラマ化などの話題作は別として、“新刊”でないと、本屋さんの目立つところに置いてもらえない。だから、筆が速い著者は重宝します。
その点、芸人さんは生い立ちや生き方がユニークだったり、ポリシーのある方が多いので、企画しやすい。芸人さん側としても、さまざまな発信ツールがあるなかで、本というのはやはり別格。自己紹介代わりにもなるので、自分に興味をもっていない人に、興味をもってもらうツールとしても役立つんですよね」
ちなみに、渡部建は22年12月25日配信のバラエティー番組『有田哲平の引退TV』(ABEMA)、同27日には『チャンスの時間』(同)に出演した。
前出・タレント本ウォッチャーは、「渡部さんというから、ぜひ“文春砲”の背景とか、夫婦の再構築の話とか、そういった話題を期待したんですけどね」と残念がったが、この出演も渡部が本を出したタイミング(22年11月24日)と同時期だった。本を出して“禊が終わった”ことをアピールしたがゆえの露出チャンスだった、とも考えられる。
いずれにせよ、芸人本とは、さまざま思惑のうえに成り立っているものである。
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