若手が出られる「ベタなお正月番組」が減ってる? 消えた『新春かくし芸大会』
#檜山豊
皆さんは季節の移り変わりを何で感じるだろうか?
例えば紅葉などの自然の景観から。例えば雑誌などのファッション特集から。単純に日々の気温から感じる人もいるだろう。様々な観点から季節を感じることは出来るのだが、わかりやすく季節感を感じられるのはテレビ番組だ。
春になれば新入生や新入社員むけの番組が増えたり、夏になれば海の特集をしたり、そして秋にはグルメや旅番組が増えたりと、その季節に合った番組が放送されるのでとてもわかりやすい。その中でも特に「正月」は特にわかりやすく、新聞や雑誌のラテ欄には”新春”や”新年”という言葉が溢れかえり、正月一色になる。
正月といえばおめでたいというイメージがあり、おめでたい場にはエンターテイメント業界がかかせないという風習がある。さらに初笑いという名目で、芸人が各地に飛び回りテレビ番組だけではなく、イベントや営業を行っている。
つまり世間の休みは芸人にとって稼ぎ時で、特に年越しや三が日は仕事が入っていることこそが自分たちの需要がわかる材料であり、家でのんびり過ごすなどとても不名誉なことなのだ。
なのでオファーがない芸人たちは自分たちでイベントやライブを開催して、少しでものんびり過ごさないように工夫するのだ。
芸人ならば出演したい正月番組というのはいくつかある。
例えば正月のネタ番組の代表『爆笑ヒットパレード』(フジテレビ系)や最近だと日本テレビ系の『ぐるナイ』の正月特番で放送される「おもしろ荘」など。そこに加えて正月と言えばこれという番組が、僕が芸人をしていた10年以上前に存在していた。
それは1964年から2010年まで毎年1回、正月に放送されていた大型バラエティ番組の『新春かくし芸大会』(フジテレビ系列)だ。
ご存じの方も多くいると思うが、この番組をざっくりと説明すると、基本的には1月1日に放送され、芸人やアイドル、俳優や著名人など、多くのタレントが紅白の2チームに別れ、様々な出し物を練習して、審査員の前で生やVTRで技を披露し、総合得点で優勝チームを決めるというもの。
芸能人の真面目な姿やプライベートに近い、普段は見られない姿を見る事ができる番組だったので、注目度が高く1980年には最高視聴率48.6%を記録するほどの「国民的番組」になっていた。1994年頃から視聴率が20%を下回ることが多くなってしまったようだが、僕が子供の頃には、正月といえば『新春スター・かくし芸大会(1970年~1993年までの番組タイトル)』であり、この番組を見る事はごく自然で当たり前のことだった。
世間的な注目度が低くなり視聴率が低下したとはいえ、芸人にとってこの番組に出るという事は『オールスター感謝祭』(TBS系)同様、タレントとしてのステータスであったのは間違いない。僕はラッキーなことにこの「新春かくし芸大会」に2001年、2002年、2004年の3度も出演させて頂いた。
正月に放送されるので事前に収録をするのだが、お正月でもないのに派手な羽織袴を着て「あけましておめでとうございます」と言っているのはとても芸能人的でなんとも言えない高揚感があった。
番組自体も通常のテレビ収録とは違い、演目一つひとつに普通の番組と同じくらいの専属のスタッフがついており、スタジオはかなりの人数でごった返している。基本的には自分たちの演目前に少し練習する時間が設けてあり、番組進行の邪魔にならないようにスタジオを抜けて練習したり衣装をチェンジしたりして、自分たちの出番を待つというシステム。そして出番が終わると、また衣装を着替えたり、メイク直しをしたり、マッサージを受けたりしてからスタジオに戻り、また他の演目を見るのだ。タレントさんによっては自分たちの演目終わりで帰宅したり、少し長めに休憩をとったりする。
大御所になるとスタジオにいるタイミングが台本に書いてあるので、そのタイミング以外は楽屋で待機したりしている。ちなみに僕たち若手芸人は、自分たちの演目以外に「盛り上げ役」という役割も担っているので、楽屋で待機するタイミングはほとんどなく、ガヤとして終始スタジオに滞在し、ひたすら声を出し番組を盛り上げる。
ただ何時間もスタジオで「よいしょ~!」とか「待ってましたぁ!」などと言い続けているので、芸人たちも段々飽きてきて適当な掛け声を発していることも多々ある。これはスタジオにいる若手芸人たちの密かな楽しみだった。
僕たち芸人は実家の両親に対して、テレビを通して自分たちの元気な姿を見せられることが大変嬉しく、とても誇らしかった。
今は『新春かくし芸大会』のような正月を代表するバラエティ番組で若手芸人が出演できるものが少なくなり、そのほとんどが『爆笑ヒットパレード』や『おもしろ荘』などネタ番組となってしまった。今もそれらのネタ番組に出られることはかなりのステータスであることは間違いないが、お笑いに興味がない人が見る番組ではない。
若手芸人の立場からすればすこし残念な気もするが、昔みたいに何時間も番組を垂れ流し、自分が好きなタレントのところだけ見るという番組よりも、お笑いを好きな人だけが見る番組にしたほうが、個人が取捨選択することが当たり前の今の時代には合っている。もしかしたら『新春かくし芸大会』の視聴率が落ちていったのも、テレビがサブスク化する予兆だったのかもしれない。
あの頃のテレビに対する国民の熱が再燃することを願ってはいるが、世間のテレビに対するベクトルが真逆に進んでいるのは現状では、否めない。いつになったらこのテレビの進化が落ち着き、次の形態がはっきりと見られる日がくるのだろうか。吉と出るか凶と出るか。今から楽しみだ。
正月番組に出られている芸人以外も地道に活動しているはずなので、近くでイベントがあるときは足を運んでぜひ「初笑い」を。
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