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世界は映画を見ていれば大体わかる #41

『すずめの戸締り』大ヒットの裏で 川村元気Pが盛大にコケたあの作品

『ブルーサーマル』平凡な観客ドン引き、主人公が抱えるトラウマ

 続いて『ブルーサーマル』は大学の航空部を描いた青春部活マンガの劇場アニメ化作品。部活マンガでも球技や陸上ならともかく、航空部ってなんだ? 航空部とはエンジンのついてないグライダーに乗って、空を飛ぶスカイスポーツの部活動だ。

 大学のテニスサークルに入った女子大生・たまきはグライダーを移送中の航空部員にボールをぶつけてしまったことで、グライダー破損の責任を負わされる。高級品であるグライダーの修理費はなんと200万円! 大学生に払える金額ではない。修理費をチャラにする条件として、航空部に雑用として加入させられてしまう。

 部活でこき使われ、うんざりするたまきだが、航空部主将の気まぐれでグライダーに乗せられ、大空を滑空する楽しさに引き込まれる。それだけでなくたまきには、グライダーのパイロットとして必要なある“特殊能力”を備えていた。

 こうして積極的に航空部活動にのめり込むたまきは、離れて暮らしている姉と四年ぶりに再会する。それはたまきにとって過去の、トラウマと対峙することであった。

 部活もの作品でも野球やサッカーとかなら経験者でなくてもどんなスポーツか観客はわかっているし、理解もしているだろう。しかし航空部はマイナースポーツなので、専門用語が飛び交っても理解できない。『ブルーサーマル』ではその専門用語を……一切説明しないというスタイル。練習試合、対外試合などでなにやら凄いことが起こって、主人公のたまきが逆転勝利を収めても何がすごいのか、よくわからない!

 なんとなくわかることは「上昇気流」を掴まえて、相手より上に飛べば有利になるってことだ。「ブルーサーマル」とは上昇気流のことである。

 だから劇中で「ブルーサーマル」って単語が出たら、何か必殺技が出たぐらいの感覚で見てもらってOK!

 こんなことになったのは、上映時間が103分で原作コミックス5巻分をこの尺に凝縮したため、マイナースポーツのルールなんて説明してられないってことかな?

 おまけに主人公は特殊な能力の持ち主なので、スポーツマンガにありがちな「努力・修行・勝利」の努力・修行の部分の薄いこと。主人公が無双して勝利しているようにしか見えないのが残念。原作マンガの作者も最初は、無能力の主人公が悩みながら努力の結果、地道に成長していくマンガにしようとしたものの、担当編集者から「マイナースポーツで主人公が悩んだら誰も読まない」と言われて路線変更したという。

 修理代は200万円ってところからもわかるように、航空部は金がかかる。金持ち学生がやるスポーツなのだ。だから平凡な悩みじゃ読者は理解しないし共感もしないので、たまきは過去に凄まじいトラウマを背負っているという設定だ。平凡な観客がドン引きしちゃうぐらいの! 大空を飛ぶ華やかさと比べて、なんてドロドロしている主人公なんだ!

 こう聞くと「そんなアニメのどこが面白いの?」と言われるかもしれないが、本作の優れた見どころはグライダーが空を飛ぶシーンの爽快さだ。

 筆者はアニメで空を飛ぶ描写で感動したのは「宮崎駿作品しかない」と断言できるが(次点で押井守)、それに匹敵とまではいわなくても拮抗している。グライダーがブルーサーマルを掴まえれば、すべてチャラ! 金持ち部活動の悩みとか、関係ないね! 空を飛ぶ爽快さをあなたも体験!

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