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世界は映画を見ていれば大体わかる #41

『すずめの戸締り』大ヒットの裏で 川村元気Pが盛大にコケたあの作品

『すずめの戸締り』大ヒットの裏で 川村元気Pが盛大にコケたあの作品の画像1
『映画 ゆるキャン△』公式サイトより

 ジェームズ・キャメロン監督の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が世界中でヒットする中、唯一の例外が日本。日本の興行ランキングトップは『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年12月末の時点)だ。トップを争うのが新海誠監督の『すずめの戸締り』で興行収入100億を突破し、勢いが衰えない。『アバター~』は「日本以外全部一位」という状況。まるで『日本以外全部沈没』(筒井康隆・著)みたい。“世界のキャメロンも形無し”といった事態になっている。

 上位2つがアニメーション作品というのも象徴的だろう。

 2022年は『劇場版 呪術廻線0』が138億円、『ONE PIECE FILM RED』が186.7億円(暫定)と100億円越えのアニメ映画が4つも公開されたのだ。2022年公開映画の総興行収入はコロナ前の水準にもどりつつあるという状況だが、邦画アニメの興行収入は前年度の2倍に達しており、邦画アニメが市場を牽引しているといっても過言ではない。

 そこで今回は2022年に公開された邦画アニメの中で他にも優れた作品、見所のある作品を3本ご紹介します。

 まずは『映画 ゆるキャン△』。2018年、2021年の2度にわたりテレビアニメ化され、2020年と2021年にはテレビドラマも放送、発行部数は700万部を突破している人気マンガの映画版だ。

 山梨県に住む女子高生たちが野外キャンプを楽しむ様子を描いた作品で、実際にキャンプの計画を立て、現地までの途上で見た光景などが詳細に描写され、調達した食材を使った料理に舌鼓を打つグルメマンガとしての側面もあり、アウトドア趣味を持つ作者の実体験に裏付けされた、キャンプのノウハウが取り込まれた作品だ。基本インドア派のオタクにすら「アウトドアって最高!」と思わせ、うっかりキャンプ道具を揃えてしまいがち。実際にキャンプに行くわけではないにせよ……。

 そんな作品の劇場アニメ版は衝撃的だった。なにしろ主要登場人物の約8年後の姿を見せたのだから。みんなは高校を卒業し、県外や地元で就職している。地元山梨の観光推進課にUターン転職した仲間が数年前に閉鎖された施設の再開発計画を手掛けたことから、「理想のキャンプ場」を作るため、久しぶりにキャンプ仲間たちが再会する。

「女子高生だった主人公らが大人になり、社会に出て行っている」という設定は、オタクのみなさんには受け入れがたい「変更」だ。オタクのバイブル『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が「永遠に終わらない学園祭前夜」を描いたようにオタクは終わらない祭りが大好きだ。「『ゆるキャン△』の登場人物が大人になるなんて、そんなの見たくない!」という一部の反発が予想された。

 劇中ではとんとん拍子にキャンプ場開発が進むが、現地から縄文式土地が発掘されたことで、遺跡関連の施設にしようという意見がでて、キャンプ場開発は中止を余儀なくされ、挫折する。

 彼女らは、女子高生のうちは高額なキャンプ道具を揃えられないので、身の丈にあった範囲でキャンプを楽しむ。大人になれば収入も増えて遠くの場所にだっていけるだろう。今でも楽しいキャンプが、大人になればもっと楽しめるはずと思っていたが、大人になればなったで、大人ならではの問題が立ちはだかる。オタクだっていつかは文化祭前夜が終わることを知る日が来る。

 挫折を経験した彼女たちはまたひとつ成長し、大人の社会の問題に対する回答を見つけ出す。今まではキャンプを楽しむだけだった彼女らは、みんなにキャンプを楽しむ場所を提供する側になるのだ。

 文化祭前夜からの鮮やかな脱出を謡った『映画 ゆるキャン△』は新しい時代のオタク作品のバイブルだ。

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