『メタモルフォーゼの縁側』がBEST1!映画ライター・ヒナタカの2022年映画ベスト10
#SLAM DUNK #ヒナタカ
2022年もあっという間にすぎ、迎えた2023年。映画ファンにとっては、ああでもないこうでもないと、迷いながら決めた「年間ベスト10」がウェブなどで公開されている時期だ。
そもそも映画に順位などつけるものではない、という意見ももっともなのだが、やはり好きな作品を振り返るのは楽しく、他の誰かのベスト10も「その人らしさ」がわかるので面白く、他の誰かにとっては観る映画の参考にもなる、個人的にはとても有意義なことだと思うのだ。
ここでは映画ライターのヒナタカが、2022年に観た400本近い新作映画から選んだベスト10をお送りしよう。その上で、個人的な2022年のテーマと言えるものもいくつか見えてきたので、最後に記しておく。
10位 シャドウ・イン・クラウド
クロエ・グレース・モレッツとグレムリンが共に戦闘機に乗り込んでバトル!というなんともB級な発想の、おそらくはかなりの低予算ながら、そこから期待していた通り、いやそれ以上のものをお出ししていただける内容だ。初めこそ主人公は狭い銃座に閉じ込められ不遜な男性たちから悪辣な物言いをされるが、そのストレスフルなシーンがあってこそ、それからのアクションを痛快に観られるようになっている。笑ってしまうほどの荒唐無稽な展開もむしろサービスであるし、上映時間83分というのも実に「わかっている」。
なお、元の脚本を執筆したマックス・ランディスが過去の性的暴行を告発されたという、男性からの言動の加害性を描く本編の内容からしても、皮肉というのもはばかられる酷い事実がある。そのことを受けて(全米脚本家組合の規定に則りランディスの名前はクレジットされているものの)脚本のリライト作業は重ねられ、結果的に脚本も手がけた女性監督ロザンヌ・リャンからの「暴力的な男たちへのカウンター」を強く感じる、反骨心と志の高い内容となったと言える。現在は各種配信サービスでレンタルできる。
『アネット』他、今に観る意義がある「有害な男性性」を描いた映画3選
第94回アカデミー賞で、ウィル・スミスがプレゼンターのクリス・ロックを平手打ちにした問題がこじれにこじれている。このこと自体は、今後のアカデミー賞のあり方、暴力はいか...9位 バブル
原作のないオリジナル企画のアニメ映画だ。先にはっきり申し上げておくと、本作の世間的な評判は芳しくない。(劇中にも批判的な物言いはあるのだが)主人公の少年にひたすらなつくヒロインのキャラクター性、やや強引に思えてしまう設定など、特に配信当初は厳しい声が寄せられていた。だが、美しくも退廃的な東京の街を舞台に「パルクール」で駆け抜けていく様は間違いなく一見の価値があり、劇場で公開されてからは迫力の映像と音楽とのシンクロを推す意見も多かった。
そして、筆者個人は、他のどこにも行けない、ここにしか居場所のない、「マイノリティー」たちの物語であることが大好きだ。聴覚過敏である主人公や、義足の青年を初め、彼らは何らかの欠落を抱えており、パルクールをすることでアイデンティティを保っているとも言える。コロナ禍で不自由さを感じていた人であれば、彼らの心情はより「ささる」のではないか。また、『響け! ユーフォニアム』などで知られる武田綾乃によるノベライズ版が、設定の考察や重要なエピソードなど、本編を補完する意味でも素晴らしい内容になっているので、合わせてぜひ読んでみてほしい。現在もNetflixで配信中だ。
8位 RRR
公開当初は興行収入ランキングで圏外スタートだったものの、3週目で9位にランクインし、その後もIMAX版が復活上映されるなど、熱狂的な口コミが話題となり、日本で公開されたインド映画史上No. 1となる興行収入4.1億円を超えるヒットとなった。内容はさすがは『バーフバリ』2部作も大人気のS・S・ラージャマウリ監督、「3時間の上映中ずっと面白い」という凄まじいエンターテインメント大作となっていた。
あまりに面白すぎて「面白いってなんだっけ」と娯楽の本質を考え出すほどの内容だが、「良い意味で大袈裟なようでピタリと決まった音楽と編集の演出」「絶望からの復活へのカタルシス」が半端ないということは間違いない、とだけ言っておこう。疾風怒涛のアクションの連続はもちろん、「敵同士にしかならないはずの2人が運命の巡り合わせにより親友になる」様もスリリングかつ尊いので、一種のブロマンスものを求める方にも大いにおすすめしたい。現在も一部の劇場でロングラン上映中だ。
7位 セイント・フランシス
34歳の独身女性が、レズビアンの両親を持つ6歳の少女の子守りをすることから始まるドラマだ。主人公は周りとの社会での立ち位置や幸せの格差を気にしていて、しかも望まない妊娠をして、中絶という選択をする。その中絶自体は重い出来事としては描かれていないのだが、その後に生理の出血が頻繁に描かれ、明確に悩んでいるように見えなくても、中絶をした事実を何度も突きつけられるようでもあった。
全体的な物語運びはユーモアも多くて軽やかだが、時おり子育てや人生の深淵を覗かせ、そして終盤では思いがけない優しい言葉に涙する、そんな重奏的な要素が積み重なっていた。自由奔放で普通にズボラなところもある主人公の姿はやや好みは分かれるかもしれないが、男女問わずに共感できる方もきっと多いだろう。人生に疲れてしまった、道に迷ってしまったという時に、ぜひゆったりと観ていただきたい。
6位 トップガン マーヴェリック
1986年に公開された『トップガン』の続編にして、迫力の戦闘機の交戦、魅力的なキャラクターによる愛憎劇、終盤のカタルシスに向けた物語運びなど、娯楽映画の面白さがとにかく詰まった内容だ。コロナ禍で延期に次ぐ延期を経ても、トム・クルーズが頑なにスクリーンでの上映にこだわったことにも感謝するしかない。レンタル配信で観る場合も、なるべく大きな画面など、映画館に近い環境を作り上げたほうがいいだろう。
序盤にトム・クルーズ演じる主人公が「でも今日じゃない」と言うシーンがある、これは現実でもいずれ戦闘機は無人化が進みドローンにも取って代わる、また自身が年を取り次の世代にバトンを渡す立場の俳優なんだという、ある種のメタフィクション的な言及と言っていい。だが、その「でも今日じゃない」という言葉通り、実際の映画の中で「現実点で最高の」娯楽を届けてくれることに感動がある。2023年7月21日公開の、トム・クルーズ主演最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』も楽しみで仕方がない。
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