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連載「クリティカル・クリティーク VOL.10」

次代を担うフィメールアーティストに光を当てるパーティ〈desktop〉

次代を担うフィメールアーティストに光を当てるパーティ〈desktop〉の画像1

 2022年11月下旬、朝から雨の降る日だった。夜にサッカー日本代表の大一番が控えており、今日はさすがに人の入りはまばらかもしれないと思っていたが、中目黒のとある地下スペースには多くの若者が集っていた。

 私は〈desktop〉というこのパーティを主催している3人にアプローチし、取材を打診していたのである。界隈では知る人ぞ知る3人で、覆面なら良いということでインタビューの許可をとりつける。

 仮にAさん・Bさん・Cさんと置こう。Aさんは一番年上で、職業はスタイリスト。話しているとファッション、アート、人文学などあらゆる領域の固有名詞がとめどなく出てくる。Bさんはファッション関連のメディアに所属し、Cさんは教育機関に勤めている。まったくバラバラの3人だが、ジェンダーレスな空気をまとっていて、ファッション・ジャンキーであり大の音楽好きであらゆるイベントに足を運んでいる点では共通している。

 私がなぜこの3人にアプローチしたかというと、いま有象無象と化し盛り上がりを見せる国内アンダーグラウンド音楽シーンの状況をキャッチするため。

 というのも、近年、ストリーミング・プラットフォームであるSoundCloud(以下サンクラ)から電子音楽やラップミュージックを中心としたユース層の新たなコミュニティが生まれ、興味深いトライブを形成しているからである。この“サンクラ・シーン”は星の数ほどいるSSWやトラックメイカーたちがそれぞれ数百~数千人規模の小コミュニティを形成しており、それゆえに存在としてはアンダーグラウンドに留まったままではあるが、若者の価値観を映した雑然とした文化として異様な熱気を帯びている。興味深いのは、インターネット発の音楽シーンでありながらも、その熱量がリアルの場でのイベントへも飛び火し可視化されつつあるということだ。

 すでにこのシーンの中心と化したパーティ〈DEMONIA〉をはじめ、2022年は〈AVYSS Circle〉や〈BADASSVIBES presents TOKYO KIDS〉など話題のサーキット・イベントも催され、ハイパーなカルチャーを生きる人々がさまざまなパーティに多く集うようになった。

次代を担うフィメールアーティストに光を当てるパーティ〈desktop〉の画像2

 〈desktop〉は2022年にローンチされたパーティのひとつだが、「パーティシーンにおけるジェンダーバランスの偏りへの問題提起」を起点に、フィメールアーティストを軸にした活動を東京と大阪にて展開している。客層は男女比がほぼ半々で、エッジーな音楽をピースフルな雰囲気の中で提供。この日は、子どもがフロアで楽しく踊る姿を微笑ましく皆が見つめる光景すらあった。ここには、従来のクラブやパーティにはない、主催者3人の独自のエディトリアル感覚によって作られた自由な空間がある。

 Aさん、Bさん、Cさんの3人は、2021年1月のClubhouse勃興期に主にファッションを中心としたマニアックな会話をすることで出会い、その後いくつかのパーティに一緒に行くことでクルーとしてイベント運営を考えるようになったそうだ。表には正体を伏せているため、ところどころ迂回しつつ、やや断片的な受け答えをつなげる形になるが、3人の豊富な現場体験も交えた貴重な話を公開したい。

――〈desktop〉を立ち上げたきっかけは?

A:2022年5月に下北沢SPREADで〈AVYSS CUP〉があって。良いイベントで、私がその夜にほろ酔いの楽しい気持ちになった勢いで、2人に話したんです。つやちゃんさんの書籍(『わたしはラップをやることに決めた -フィメールラッパー批評原論-』/DU BOOKS)でvalkneeさんが話していたラップシーンにおけるジェンダーの問題や、SNSで話題になっていたフェスにおけるジェンダーバランスの問題について知り、考えていたタイミングだったので、自分たちでイベントをやってみない? と。

C:前の年に書籍で『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(河出書房新社)の翻訳が出て。それを読んだりしていて、自分なりに考えるところもあった。なので、パーティについてはすんなりと「やってみようか」という話になりました。

B:私は2021年くらいから、サンクラでぱちぱちコズミックコンピューター!(以下ぱちコズ)やnyamuraさんやDr.Anonとかにハマって。ヤバい人たちが出てきたなと思ったんです。あの人たちが同時多発的に現れて、新しいシーンが生まれたなと感じた。でも、誰も騒いでいない。唯一反応してくれたのがこの2人だったんです。だから〈desktop〉でそういうシーンを作っていきたいという気持ちはありました。

次代を担うフィメールアーティストに光を当てるパーティ〈desktop〉の画像3
nyamura

――出演者はどのように決めているのでしょうか。

B:まず第1回目を大阪拠点で始めようという流れになったんですが、ぱちコズとnyamuraさんは関西拠点なのでそのお2人を中心にブッキングしたいよねというところからディスカッションして。そこから(ぱちコズの)cyber milkちゃんに奈良のCH!KUB!を紹介してもらったり。だいたい、バンド系はAさんが、ヒップホップ系は私が案を出すことが多いです。

――〈desktop〉を立ち上げるにあたって、意識したパーティはありますか?

B:やはり〈Demonia〉はひとつの指標になっていると思います。(註:SoundCloudを軸に活動するアーティストにフォーカスするパーティ。2020年に開始、回を重ねることに動員を増やし現在はCIRCUS TOKYOで行われている)

A:〈Demonia〉がまだピックアップしていないアーティストを応援したいという気持ちはあります。実際、東京1回目の〈desktop〉で、終わってからnyamuraさんのバックDJで〈Demonia〉主催のfogsettings君と話したとき、イベントを運営している上での熱い想いというのも聞かせてもらったんですよ。どういうふうにシーンを大きくしていきたいか、という。それを聞いた上で、じゃあ自分たちにできることは何だろうって考えています。あとはやっぱり〈K/A/T/O MASSACRE〉(註:古着屋NOVO!主催で幡ヶ谷Forestlimitにて毎週水曜に開催されているパーティ)。誰が出演するとか関係なく私たちはスケジュールさえ合えば必ず行くので、オルタナティブなイベントの指標にしています。

B:〈K/A/T/O MASSACRE〉ってあまり知られていないアーティストや初めてライブやDJをやるアーテイストも出演するんですが、それでもお客さんがある程度集まるじゃないですか。毎週新しい人をブッキングし続けるという、(主催の)加藤さんの異常さに皆がリスペクトを示している。それがすごいところで、私たちもできるだけ意識して東京の2回目ではやまだはなこさんやbadangelさんといった、一度もライブ経験がないアーティストをブッキングしました。

――ディグの力、ブッキングの力、スピード、それらの量、すべてにおいて〈K/A/T/O MASSACRE〉はすごいですよね。

B:圧倒的ですね。ほかにも音楽ジャンルは少し違いますが思想的な側面では〈WAIFU〉にも影響は受けているし、あと〈FLAG〉もすごいなと思います。(註:〈WAIFU〉は新宿のクラブで起こった性的マイノリティ差別をきっかけに始まったパーティ。トランスジェンダー差別や同性愛差別にとどまらず、人種差別やセクシュアルハラスメントなどを禁止するポリシーを掲げる。FLAGは新世代デュオのSATOHが詳細を公開しないリミテッドイベントとして始めたパーティ)

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