映画『ホイットニー・ヒューストン』あまりにもったいない“注目されなさ”
#ヒナタカ
年末の今、映画館では話題作が大渋滞を起こしている。何しろ、新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』は興行収入100億円突破寸前、『THE FIRST SLAM DUNK』は原作ファン以外からも絶賛の嵐、『ラーゲリより愛を込めて』も賞賛の声がやまず、さらにはハリウッド超大作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』も劇場ならではの体験ができ、ベストセラー原作の劇場アニメ『かがみの孤城』も繊細な演出が素晴らしい作品に仕上がっていた。
そのためもあるのか、はたまた本国と公開時期が近すぎたためか、あまり宣伝が広まっておらず、注目されていないように思えるのが、12月23日より公開されている『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』だ。しかし、それはあまりにもったいない!
言うまでもなく、題材となっているのはアメリカの歌手ホイットニー・ヒューストン。出演した1992年の映画『ボディガード』の主題歌「I Will Always Love You」は日本でもよく知られた超大ヒット曲であるし、それ以降7曲連続で全米シングル・チャート1位を獲得、CDの累計セールスは2億枚以上を記録している、まさに「世紀の歌姫」だ。
さらには、『ボヘミアン・ラプソディ』の脚本執筆で知られるアンソニー・マッカーテンが再び偉大なアーティストの伝記映画を担当、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のナオミ・アッキーが主演を務めるという、これ以上はないほどの布陣で送り出されている。
その甲斐あって、王道にして誠実、万人におすすめできる音楽映画となっていた。この大渋滞の中でも、年末年始に映画館で高揚感を得たい方、唯一無二の歌声のため「THE VOICE」と称されるほどのアーティストの半生を追体験したい方に、優先的におすすめしたいのだ。さらなる魅力を記していこう。
スター街道を駆け上がる最中に描かれる不安と問題
映画の序盤では、著名なシンガーの母を持つ少女時代のホイットニーが、オープニングアクトを急に任されて、見事な歌声がその場にいたレコード会社の社長の目にとまり、スター街道を駆け上がっていく様が描かれる。こう書くと、まるでトントン拍子に成功していく印象を持たれるかもしれないが、それだけではない。何しろ、後の展開に関係する不安と問題も並行して描かれているからだ。
例えば、ホイットニーの父が音楽業界に詳しいことからエージェント的な役割を務めたり、親友の女性ロビンがアシスタントを希望するのだが、両者は激しく対立してしまう。実は、ロビンとホイットニーは親友以上、つまり同性愛の関係でもあり、父から問題視されるだけでなく、世間から疑惑を持たれてしまうのだ。
当時はやはり同性愛に対する偏見や差別が根強く、今のように同性愛者であることをカミングアウトして、スターを続けられる風潮ではなかったのだろうとも、劇中の出来事からつぶさに思える。その後もホイットニーとロビンの関係は、恋人として愛し合いたい、もしくは人生を共にしたいのに、そうはできないというジレンマが、時に激しい感情として、時に言葉に出さなくても伝わってくる。
劇中では、ホイットニーの音楽そのものに、彼女からしてみれば的外れな批判をぶつけられたため、ラジオでバッサリと切り捨てる一幕もある。彼女は本音を言ってしまえる度胸や強さもあるのに、それでもロビンとの関係を表立って言えないということが、より切なく感じられるのだ。
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