骨董品の世界を舞台にした地獄めぐり 映画『餓鬼が笑う』クリエイターズ対談
#映画 #インタビュー
古物の世界では、生き方が評価される
――骨董品の世界に足を踏み入れた大は、地獄めぐりを体験し、人生のどん底を味わい、そして再生を目指すことに。大江戸氏と平波監督の想いが込められているように感じます。
平波 「地獄巡り幻想奇譚」が本作のキャッチコピーになっていますが、大が地獄を放浪するのは物語の中盤であって、地獄から帰還してからが実はけっこう長いんです。僕に言わせれば、地獄から戻ってきた現世こそが本当の地獄なんじゃないかと。
大江戸 平波監督、深いなぁ。若い頃はまだ経験が少ないから、失敗した体験をつらく感じるけれど、何度失敗しても這い上がればいいんです。国男の台詞「苦しいときほど笑えよ」、これに尽きると思いますね。
――最後になりますが、画家役の田中泯は出演シーンが限られているものの、存在感があります。
平波 髙島野十郎という実在した画家をモデルにしたことで、役が広がりました。ダメもとで田中泯さんにお願いしたところ、脚本を面白がって受けてくれたんです。
大江戸 髙島野十郎の画集を見てもらえれば分かりますが、外見も田中泯さんと瓜二つですし、普段は農村で暮らしているという生き方もそっくり。野十郎の絵は、彼が亡くなってから評価されるようになった。本作に登場する野十郎が描いた「蝋燭」などは、先日覗いたオークションでは3000万円の値が付いていましたが、もともとは売るために描いた絵画ではなく、お世話になった人のためにお中元感覚で描いた絵だったんです。
平波 人にあげるために描いた絵という逸話はいいなぁと思い、劇中で使わせてもらいました。
大江戸 野十郎の欲のない生き方が、現代では評価されるようになった。野十郎の絵に付けられた値段は、彼の作品の持つ芸術性だけでなく、彼の生き方そのものに対する評価なんです。自分の身の丈に合ったものを集める分には、骨董品はとても面白い世界ですよ。
『餓鬼が笑う』
企画・原案・共同脚本/大江戸康 監督・脚本・編集/平波亘
出演/田中俊介、山谷花純、片岡礼子、柳英里紗、川瀬陽太、川上なな実、田中泯、萩原聖人
配給/ブライトホース・フィルム、コギトワークス 12月24日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
©OOEDO FILMS
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●平波亘(ひらなみ・わたる)
1978年生まれ、長野県出身。2004年にENBUゼミナールを卒業し、自主映画を中心に映画製作活動を始める。長編映画『スケルツォ』(08年)が第30回ぴあフィルムフェスティバルに入選。2014年には『東京戯曲』、2020年には『the believers ビリーバーズ』が劇場公開。今泉力哉監督、白石晃士監督らの作品の助監督も長年務めてきた。2023年には新作『サーチライト 遊星散歩』が公開される予定。
●大江戸康(おおえど・やす)
千葉県出身。30歳を過ぎて骨董屋の道を志し、35歳で株式会社「大江戸美術」を設立。ニューシネマワークショップ(NCW)に半年間通い、シナリオの基礎を学ぶ。山本政志監督作『脳天パラダイス』(21年)ではエグゼクティブプロデューサーを務め、『餓鬼が笑う』で脚本家デビューを果たした。
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