トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > トラウマ級のミソジニーを描くホラー

ホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』が賛否両論上等の、トラウマ級のミソジニーを描く理由

ホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』が賛否両論上等の、トラウマ級のミソジニーを描く理由の画像1
C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 イギリスのホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』が公開中だ。日本では全国136館という中規模の公開ながら、週末興行成績で初登場10位とヒットしている。

「永遠のトラウマになること必至」が伊達ではない

 だが、映画本編はお世辞にも万人にはおすすめできない問題作だ。何しろ公式サイトには「特にラストへと展開する怒涛の20分は永遠のトラウマになること必至」などと記されており、それほどに露悪的かつグロテスクで、脳裏に焼きついてしまうクライマックスが待ち受けているのだから。R15+指定でもやや甘く思えるし、R18+になっても誰も文句を言わないだろう。

 実際にSNSでは「観るなよ」「おすすめしません!」などと強烈な拒否反応を覚えた感想がつぶやかれている一方、「気持ち悪すぎて笑った」「醜悪な描写に対して映像は洗練されていて美しい」「よくぞあのラストを思いついて実現させた!」など独自の魅力を推す声も多く、まさに賛否両論だ。クライマックス以外でも意図的に観客を不快にさせる描写が満載のため、ホラー映画を観慣れているという方も、相応の覚悟を持って観たほうがいいだろう。

 何にせよ、こういう「ヤバそうな映画」がヒットし、良いも悪いも含めて話題になるというのは喜ばしいことであると思う。映画製作・配給会社のA24は、同様にトラウマ級の恐怖体験ができる『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』が日本でもSNSを中心に話題を集めヒットしていたので、今後もホラー映画の話題をかっさらってほしい。

エンタメとしても楽しめるが、現代的な問題も浮上する

ホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』が賛否両論上等の、トラウマ級のミソジニーを描く理由の画像2
C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 この『MEN 同じ顔の男たち』あらすじは、「心の傷を癒すため田舎町へやって来た女性が次々と恐怖に遭遇する」とシンプル。場面によっては、主人公の背後に「何か」がいて、観客は「後ろ!後ろ!」と教えたいのに教えられないという、ホラー映画として定石とも言える演出がされている。恐怖の対象から逃げ惑う、または物理的に立ち向かうサスペンスも展開するので、十分にエンターテインメントとして楽しめるところもある。

 そして、作品の中心に据えられているのは、はっきりミソジニーや有害な男らしさの問題だ。まず、主人公の夫の「脅迫の仕方」が最悪だ。離婚を切り出す彼女に対し「君が一生、罪の意識を背負うように、僕は命を絶つ」などと言うのだから。

 風光明媚な自然の中にある田舎町にやってきても、男たちはひたすらに不快だ。彼らは初めこそ友好的または紳士的で、初めこそ「まともじゃないか」と心を許しそうにもなる時もあるが、次の瞬間ではっきりと侮辱の言葉をぶつけたり、問題の責任を彼女に転嫁させるような物言いをしたりもする。その様がとてつもなく気持ち悪いし、恐ろしいのだ。

 シンプルなホラーとして展開し、ミソジニーや有害な男らしさの問題がはっきり現出した後は、もはや「わけのわからない」不条理な展開へとなだれ込む。エンタメから逸脱して、笑ってしまうほどにシュールなアート的な映画に転向する印象もあった。露悪的かつグロテスクなクライマックスを抜きにしても、そこは大いに賛否両論が分かれるだろう。だが、後述する象徴的なモチーフを踏まえて、考察をしてみるのも面白い内容ではあるはずだ。

 なお、同様のテーマを描いた映画は、MeToo運動が起こった後に多数生まれている。2022年公開作では『バーバリアン』『ドント・ウォーリー・ダーリン』『あのこと』『ザリガニの鳴くところ』もそれに当たるだろう。

 

 

 さら2023年1月13日には、ハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行を告発した2人の女性記者の回顧録を映画化『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』も日本で公開される。男性こそ、これらの映画でこの問題に触れ、良い意味で居心地が悪くなってほしい。

12
ページ上部へ戻る

配給映画