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歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『鎌倉殿』いよいよ最終回…承久の乱における後鳥羽上皇のおごりと武士たちの損得勘定

坂東武者が朝廷の命令に従うと過信した後鳥羽上皇

『鎌倉殿』いよいよ最終回…承久の乱における後鳥羽上皇のおごりと武士たちの損得勘定の画像2
後鳥羽上皇(尾上松也)|ドラマ公式サイトより

 それにしても、この時、上皇自ら鎌倉へ進軍しなかった点は興味深いです。この上皇の行動からは、院宣さえ出せば、鎌倉の武士たちは北条家を裏切り、京都方に寝返ると信じ切っていたことがうかがえるようです。これは自身の権威を過信した行為であったと筆者には思われます。

 神仏に等しい権威である上皇からの義時追討命令と、尼将軍からの説得の板挟みにあい、御家人たちの多くに葛藤があったであろうと思われますが、その点については残念ながら『吾妻鏡』では語られておらず、想像するしかありません。しかし京都方に寝返る御家人が結果的に少なかったのは、その権威とは別に、政治家としての上皇の実力を冷静に判断されてしまったのであろうと思われます。今回のような“有事”の時ですら自ら動こうとしなかった上皇に対し、「本当に東国の風土・文化を理解し、その治安を守る政治が行えるか」という疑問が御家人の間で生じてもおかしくありません。どちらにリーダーとしての資質があるか、坂東武者たちはシビアに評価したのでしょう。

 また、上皇による院宣には、義時追討命令だけでなく、自治体としての鎌倉幕府の根幹である諸国の守護・地頭の職を、「朝廷の監視下に置く」という文章もありました。守護・地頭には、任国の治安を守るべく軍を動かし、現在でいう警察のような仕事も行う権利が認められていましたし、なにより徴税業務も請け負っていました。それらの権利が朝廷にふたたび召し上げられるということは、これまでのように自分たちの領地を自分たちの手で治めるということが叶わなくなるのです。そもそも、関東において武士たちが力による支配を行っていたのは、平安時代を通じて朝廷による全国の治安維持能力が低かったからという現実もあります。坂東武者たちの多くが京都方につかなかった理由もうなずけるでしょう。

 北条家支持に傾いた大勢の坂東武者たちの思考を推理してみましょう。仮に院宣に従って義時を討ち取り、北条家を幕府の中枢から退かしたところで、京都のおエライ方が“お飾り”として送られてくるだけ。実質的な政治は、そういう“お飾り”のお役人の下で、三浦家など有力豪族たちが執ることになるでしょう。そうなれば、北条家がかつて行ってきたようにライバルを蹴落とす“バトルロワイヤル”が再び繰り返されるでしょうし、治安が今以上に乱れることは目に見えています。

 逆に言えば、三浦義村にとっては北条家に取って代わるチャンスであったとも考えられます。しかし、ドラマでもそういう描写がありましたが、史実の義村も上皇からの院宣を見て、北条家支持をすぐさま示しました。義村ですら裏切らなかったように、他の多くの御家人たちも、幕府方について戦ったほうがよほど現実的な利益が大きいという損得勘定が働いたのではないかと筆者は考えます。

 「承久の乱」において義時は鎌倉に残り、嫡男・泰時と異母弟・時房が率いる大軍を京都に向かわせました。泰時は父・義時の命を受け、総大将として鎌倉を出発するのですが、翌日、単独で引き返してきて、「もし、上皇や天皇が戦地に直接赴いてきていたら、どうしましょうか」という伺いを立てたそうです(『増鏡』)。義時はそういう場合、相手の兵も絶対に攻撃してはならない、兜を脱いで降伏しろなどと伝えています。事実だとすれば、いかに義時が頼られていたのかがわかる興味深い逸話ですね。ドラマの義時が自らの命を上皇に差し出して鎌倉を守ろうとしたのも、このあたりのエピソードからの影響を受けたのでしょうか。

 「多勢に無勢」という言葉どおり、一説に19万騎に膨れ上がった幕府軍の前に上皇軍は敗戦続きでした。敗北を覚悟した上皇は保身のため、義時追討の院宣を取り消し、自分に味方してくれた藤原秀康や三浦胤義などを朝敵として討ち取るよう、新たな宣旨を出しました。『承久記(慈光寺本)』によると、御所に閉じこもった上皇は、「最後にお目にかかりたい」と謁見を求めてきた秀康や胤義、そして山田重忠という武士たちを追い返し、「何方(いずち)へも落行け」と言い放ったそうで、山田は閉じられたままの御所の門を叩いて悔しがったそうです。こうして胤義やその息子なども次々と戦死を遂げ、藤原秀康は幕府軍の捕虜となってしまいました。(2/3 P3はこちら

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