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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > ある死刑囚が守りぬいた「約束」
『孤狼の血』柚月裕子、最新作インタビュー

『教誨』ふたりの幼児を殺めたとされた死刑囚が最期まで守りぬいた「約束」とは?

小説だからこそ描ける「目に見えない部分」

ーー登場するスナックのママのセリフで「誰もが目に見えるものだけで決めつけて、その裏の事情なんて考えもしない。目に見えないものにこそ、大事なことが詰まっているのにさ」とあります。ここには柚月さんの思いが込められているのでしょうか。

柚月 私は岩手出身で、実家が海沿いにあったので、東日本大震災で親を亡くしているんです。実家のあった街全体が津波で被害に遭ったので、形見や遺品はほとんど持ち出せませんでした。自分の家がどこだったのかもはっきりとわからない壊滅的な場所で、思い出の写真も品も、形あるものは何も残っていないという時に、何が自分には残っているんだろうか。人生で右に行くか左に行くか迷った時に、私が右を選ぶ理由は、やはり両親のもとで受けた影響からだろうと考えると、本当に続いていくものって、目に見えない形のないものであって、それが自分を支えていくんだろうなと思うんです。

ーー下間住職の「生涯、ひとつも過ちを犯さずに過ごせる者など、この世にはいません。あなたも、そして、私もそうです」というセリフも心に残りました。

柚月 「いや、自分は今まで罪は犯していない」という人だって、きっとどこかで知らないうちに誰かを傷つけていることがあるし、一方から見て右と見えることが、ほかの誰かからは左に見えることもあります。それにもかかわらず自分は罪を犯さずに生きていたと言い切れるとしたら、その人はある意味傲慢だと思うんです。自分はどこかで罪を犯してきたのではないかと立ち止まって考えることは必要だと、自分に引き戻して考えてもそう思います。

ーー響子が死刑執行の直前に呟いた、「約束は守ったよ、褒めて」という「約束」の中身がなんだったのかは読者に読んでいただくとして、『教誨』という作品を通して柚月さんが読者に感じて欲しいのはどんなことでしょうか。

柚月 『教誨』は書いていてとてもつらかったけど、分からないことを素直に分からないまま、書いた作品です。言い換えれば、読んでくださる読者の方々が、それぞれに何かを胸に思ってくれる作品だと思います。読者の方それぞれにいろいろな受け止め方ができると思うので、どうぞ手に取っていただきたいです。

(プロフィール)
柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)
1968年、岩手県生まれ。2008年、『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞。他『最後の証人』『検事の死命』『蟻の菜園―アントガーデン―』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』『盤上の向日葵』『慈雨』『月下のサクラ』など多数。

 

 

里中高志(ジャーナリスト)

フリージャーナリスト。精神保健福祉士。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)。

最終更新:2022/12/20 18:15
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