『珍プレー・好プレー』の画期的なアフレコと演じきるみのもんた力
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放送作家の深田憲作です。
「企画倉庫」というサイトを運営している私が「あの企画はどこが面白いのか?」を分析し、「面白さの正体」を突き止めるための勉強の場としてこの連載をやらせてもらっています。
今回のテーマは「『プロ野球珍プレー・好プレー大賞』について」です。
この番組は、フジテレビ系列で1983年から続く特別番組で、現在は『中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞』というタイトルで年に1回放送されています。30代以上の野球好きにとってはおなじみの中日ドラゴンズ・宇野選手のヘディングエラー、広島カープ・達川選手のデッドボールアピール、星野仙一監督の乱闘などは、この番組をきっかけに世に知れ渡ったものだと思います。
先日、2022年版の特番が放送されていましたが、改めてこの番組のVTR演出の凄さを感じ、記事にすることにしました。
なんといってもこの番組の最大の特徴はナレーション。現在はアンタッチャブルのザキヤマさんがナレーターを務めていますが、皆さんのイメージにあるのはみのもんたさんの声でしょう。
一般的なテレビ番組のナレーションと違うのは、選手や監督の声を勝手に代弁してアフレコするコミカルなナレーションです。1983年は私が生まれた年ですので、当時のテレビ界の演出については全く把握していませんが、このアフレコナレーションは当時、画期的なモノだったと想像できます。
衝撃映像集の番組など、有り物の映像素材を使って作る番組を、テレビ制作の現場では「フッテージモノ」といった言い方をしますが、フッテージモノの番組では特に、ディレクターの編集能力が試されます。全く同じ映像素材を使ったとしても、映像の切り取り方やナレーションのつけ方によって面白さが別物になるからです。
フッテージモノの番組を面白くする時に考えることをいくつか挙げると、その映像で起こる面白い現象をより視聴者が面白く感じられるようにフリのナレーションを工夫する、面白い現象が起きた後のナレーションを工夫する、面白い現象を何回もリプレイして見せる、スロー再生でリプレイして見せる、コミカルな音楽が効果音をつける、などでしょうか。
『珍プレー好プレー大賞』では、映像に入れるナレーションを、客観目線ではなく、選手や監督目線でアフレコするという演出がされており、これこそがこの番組の肝になっている部分です。
たとえば、審判の判定に異議を唱えて抗議をする選手のシーンにナレーションを入れるとして、普通の番組なら「●●選手が鬼の形相で猛抗議! 怒りに任せてまくしたてます!」といった感じ。それが『珍プレー好プレー大賞』では「ちょっとちょっとちょっと! ウソでしょ!? どこに目付いてんのよ! どこからどう見てもセーフでしょ? ねえ! どうなってんのよ全く!」といった具合。
このように、同じ映像素材を使っていても、ナレーションのつけ方で全く違う映像が仕上がるわけです。ただでさえ面白い珍プレーが、『珍プレー好プレー大賞』ではアフレコナレーションによって何倍も面白く仕上がっていますよね。
このアフレコナレーションの演出を考えつき、実行に移した制作者も凄いと思いますが、それをあそこまでのクオリティでやり切っているみのもんたさんの能力にも脱帽です。しかも、みのもんたさんがこのナレーションを収録する際に台本はなく、アドリブで行っていたと言うから驚愕です。
余談ですが、同じ映像でも演出によって見え方が全く変わるということのたとえ話として、『オレたちひょうきん族』『森田一義アワー 笑っていいとも!』(共にフジテレビ)のプロデューサーとして知られる横澤彪(よこざわたけし)さんがこんなことを言っていたそうです。
「テレビ画面にただの飛行機が映っているだけなら誰も見ないけど、そこに“この飛行機が今ハイジャックされています”というテロップが入ったらみんなが見る」
これは映像演出の、核心を突いた素晴らしい話だと思います。
読者のみなさんも今後、動物の可愛らしいハプニング映像や衝撃映像集の番組を見る時には、映像編集に注目していただくと、これまでと違った楽しみ方ができるかもしれません。それでは今日はこの辺で。
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