山田裕貴と松本まりか、異質な者同士の共存関係を描く脚本家・高田亮氏の映画『夜、鳥たちが啼く』
#バフィー吉川
ピンク映画出身であることをプラスに生かし、カルトとエロスを融合させた『ビリーバーズ』(2022)の強烈なインパクトがまだ記憶に新しく、23年も『恋のいばら』や『銀平町シネマブルース』、『放課後アングラーライフ』とすでに新作が3作も待機中の城定秀夫監督による映画『夜、鳥たちが啼く』が、12月9日から公開されている。
さすがに『ビリーバーズ』とまではいかないが、今作においてもピンク映画を少し匂わせるような演出は健在だ。
『東京リベンジャーズ2』2部作の続投も決まり、さまざまなジャンルの役柄を演じられることからも、実力派若手俳優として注目を集める山田裕貴。そして、今年『極主夫道 ザ・シネマ』、『妖怪シェアハウス -白馬の王子様じゃないん怪-』など、多くの話題作に出演していながらもバイプレイヤーとしてのポジションが多かった松本まりかによるダブル主演も見どころだ。
そして何より注目してもらいたいのは、脚本を務める高田亮氏の存在。高田氏といえば、『裏アカ』(20)や『さがす』(22)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(同)の脚本担当で、実は『クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』(20)の脚本家でもある。そこでも感じたのが、異質な者同士の共存関係を描くことの巧みさだった。
今作においても、高田氏の脚本力が存分に発揮されたといえるだろう。ぜひ、物語の構成力に注目して観てもらいたい。
【ストーリー】
若くして小説家としてデビューするも、その後は鳴かず飛ばず、遂には結婚を前提に同棲中だった恋人にも去られ、鬱屈とした日々を送る慎一(山田裕貴)。そんな彼のもとに、職場の先輩で友人だった邦博の元妻・裕子(松本まりか)が、幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。慎一は恋人と暮らしていた一軒家を、離婚して行き場を失った2人に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きするのだという。「迷惑をかけて申し訳ない、家が見つかったらすぐに出ていくから」と慎一に詫びる裕子。だが、恋人の去った家に一人暮らすことを重荷に感じていた慎一は、親子が部屋を使ってくれることにどこか安堵していた。こうして始まった、彼らのいびつな「半同居」生活はどこへ向かうのか……。
松本まりかは不安定な役がハマる
結婚を考えて同棲していた恋人の残像がまだ残る慎一の家に、今はシングルマザーの裕子がいる。しかし、慎一と裕子は恋人ではない。ただの知り合いだ。
その独特の距離感で、なんとなくあるわだかまり。それが次第に明らかになっていくことで、裕子が慎一の家に住むことになった経緯と、慎一の恋人が家を出た理由がリンクしてくる構造になっており、高田氏による脚本力の強さを思い知らされる。
無邪気に声をかけ、なついてくるアキラと裕子の姿を見ているうちに、慎一の目には、かつての恋人の残像が時おりダブって映る。
慎一には子どももいなければ、育てた経験もないが、子どもをひとり置いて、夜遅くに家を留守にする裕子の行動も気になるし、何よりアキラが寂しそうにしていて心配だ。口を出す義理もないし、他人の子どもなのだから関係ないとはいっても、すぐ近くにいる身としては、ほっておくにほっとけない。
突然、父親がいなくなってしまった子どもをケアするほどの余裕もなく、自分の心の傷も癒せていない裕子も気がかりだ。かと言って、慎一自身も小説を書くことができないイラ立ちや不安で、他人を気遣っている余裕はない。
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