乃木坂46齋藤飛鳥卒業曲『ここにはないもの』と『サヨナラの意味』に秘められた、未来へ向かう“3ステップ”
#音楽 #橋本奈々未 #卒業 #齋藤飛鳥 #乃木坂46
乃木坂46最新曲『ここにはないもの』は、本シングルをもって卒業する齋藤飛鳥の旅立ちーー「いってきます」を彩る一曲。本曲を聴いて、これまで見守ってきたあらゆるシーンでの齋藤の姿が走馬灯のように蘇ったファンも多いはず。そこには、2017年に卒業したあのメンバーの存在もいたのでは。
音楽家・演奏家の小池直也氏が、31thシングル『ここにはないもの』と、16th『サヨナラの意味』の音楽的な類似を分析、考察します。
『ここにはないもの』『サヨナラの意味』サビ前へのとある指摘
その日はいつも突然やって来る。乃木坂46の齋藤飛鳥が年内をもってグループでの活動を終了し、来年にラストコンサートを開催することが発表された。1期生として歩んだ11年間、それを見守ってきたファンたちからは卒業を惜しむ声が少なくない。
彼女がセンターとして有終の美を飾るのが、31thシングル『ここにはないもの』(12月7日発売)。齋藤はMVで、デザイナーを目指す主人公を演じ、YouTubeでの再生数は12月7日午前の時点で293万回を超えている。
『ここにはないもの』は、2017年に乃木坂46を卒業・芸能界を引退した橋本奈々未の卒業曲『サヨナラの意味』との類似性が一部ファンの間で指摘されている。
特に両曲のサビの前の盛り上がり、歌詞でいえば『ここにはないもの』の「~涙を隠してる」と、『サヨナラの意味』の「~かけがえのない足跡と…」の部分が似ている、と評判である。
『ここにはないもの』サビ前:
『サヨナラの意味』サビ前:
物理的な音名で考えると共通する音がほとんどない2曲なのに、なぜそう感じるファンが多い
のだろうか。ファンは齋藤が橋本を慕っていたその深い関係性を知っているからこそ、似ているように聴こえてしまうのか? しかし、それは気のせいではない。
“乃木坂らしさ”を形づくる「転調」
『ここにはないもの』と『サヨナラの意味』、この2つの楽曲は全く同じ形式による「転調」を使っている。
「転調」とは。読んで字の如く、曲中で「調(キー)が転じること」で、それはカラオケのリモコンに設置されている「#」と「♭」のボタンをイメージすると理解しやすい。同じメロディでも「#」を押すと音程が高く、「♭」を押すと低くなる。あれはメロディを転調させ、自分の喉にアジャストするための機能なのだ。
楽曲で用いられる転調には多様なパターンがあり、この限りでないことを前置きとするが、ポップスにおいては最後のサビや終盤の追い込みで、“リモコンボタン”の「#」を1回、または2回押した分の高さに上げる例が頻出する。
例えば乃木坂46の楽曲でいうと、デビューシングル『ぐるぐるカーテン』(12)は最後に「♯」1回分、17年の初東京ドーム公演(伊藤万理華、中元日芽香のラストコンサートでもあった)でのパフォーマンスが語り継がれる『きっかけ』(16)は2回分の転調。また、西野七瀬が初センターを飾った8th『気づいたら片想い』(14)のラスサビは、「~気付いたら」のワンフレーズごとに「♯」を1つずつ重ねて、計2回分になる仕組みだ。
なおファンの間では、この「♯」2回分の転調が“乃木坂らしい”楽曲を構成する要素だという意見もある。
応用概念を省けば、基本的にキーは12種類。ピアノのドレミファソラシに存在する12の白鍵と黒鍵のどれを中心音にするかで決定する。これはドを1段目とした階段を思い浮かべるとわかりやすい。
図に示した通り、曲の起点キーとなるのは『ここにはないもの』が5段目、『サヨナラの意味』が4段目。ほとんど物理的な音が一致しないというのは、この一段の差(半音)のズレによるものである。
そして、問題のサビ前で仕掛けられているのが、階段を2ステップ(「♯」2回)分上る転調だ。しかもあえて専門的に言えば、両曲ともに「Ⅵsus4からの解決(=不協和音から協和音へシフトすること)」という躍動的なサウンドに導かれて上昇するのもポイント。
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