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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > オードリー春日と私たちの15年間

オードリー春日俊彰の「コント」と私たちの15年間

今田耕司「それぞれのキャリアがないと成立しないコントでしたね」

 コントが始まる。背景には、テレビの商店街ロケでおなじみの戸越銀座の入口の写真。そこに春日とジャンポケ・斎藤が立っている。春日はいつものピンクベストだ。カメラに背を向ける形で2人の手前に座っている黒いパーカーの男(野田クリスタル)が、「それでは本日の商店街ロケ、お願いしまーす」と声を上げる。野田クリスタルはAD役だ。

 ロケがはじまり、野田クリがフリップをめくる。それに合わせて、春日と斎藤が声を出す。

斎藤「はぁーい!」
春日「トゥース!」

 なるほど、いつものギャグである。景気づけの発声だろうか。が、様子がおかしい。2人はカンペをチラチラ見ながら繰り返す。

斎藤「はぁーい!」
春日「トゥース! トゥース! トゥース!」
斎藤「はぁーい!」
春日「トゥース! トゥース! トゥース!」
斎藤「はぁーい! はぁーい! はぁーい! はぁーい! はぁーい!……はぁーい!」

 フリップがめくれるタイミングに合わせながら、斎藤と春日は「はぁーい!」「トゥース!」を繰り返していく。このあたりから、少しずつネタの構造がわかって可笑しくなってくる。少し場所を移しても連呼され続けるギャグ。春日が「トゥース!」と言うべきところで斎藤が「はぁーい!」と言ってしまうミスが出るとロケは中断し、また最初からやり直し。「はぁーい!」「トゥース!」が繰り返される。さらに、そこにチョコプラ・松尾とコロチキ・ナダルが合流するのだが――。

 台本通りに同じギャグを音ゲーのように繰り返す彼らは、果たして商店街で何を見ていたのか。その心中はいかに。それを想像すると笑ってしまう。ロケの休憩時間に「トゥース」「はぁーい」といった持ちギャグだけで会話したり、逆にロケ中のフリートークで何も話せなくなったりといった展開も面白かった。

 また、ロケ芸人役の4人はほとんど表情を変えない。諦念、矜持、不本意、思考放棄、自暴自棄、プロフェッショナリズム――何かしらの感情・信念が読み取れそうで読み取れない、含まれた成分の構成がちょっとずつ違って見える各人の絶妙な表情がいい。他のコントはセットが結構しっかりしていたりもしたけれど、チーム春日は商店街の写真だけ。セットの簡素さも想像の余白を生んでいただろうか。

「それぞれのキャリアがないと成立しないコントでしたね」

 司会の今田耕司はネタ終わりにこうコメントしていたけれど、このコント、支柱は特に春日のパブリックイメージだろう。『あちこちオードリー』(テレビ東京系)をはじめとしたトーク番組や、体を張る挑戦企画の番組で、台本やスタッフの指示に忠実な春日の姿勢はしばしばイジられてきた。それを受け止める春日の側は、むしろ謎に“ストイック”な感じも醸し出してきた。私たちはこの15年近く、日々そんな春日のイメージを強化し、共有してきたのだ。

 で、そんな春日のイメージを極限まで誇張し、他の芸人たちも巻き込んでコントに仕上げたのが今回のネタだろう。コントがはじまる前から、春日は念押しのようにVTRで「ネタを書かない」と吹聴していた。そのスタンスで作られたコントの中身が、ギャグを言うだけで自分から何も発信しない芸人の可笑しみをシュールに描くコントになっている。そんな入れ子構造が面白さのひとつの理由かもしれない。

 さて、だとしたらどこからがコントだったのだろうか。ネタ前のVTRのところから? ドラフト会議のところから? 『あちこちオードリー』で「ネタ受取師」とイジられたときから? あるいは春日が私たちの前に初めてあの姿で登場し、センターマイクにゆっくりと歩いてきたときから?

 入れ子はどこまで続くのか。春日マトリョーシカの終わりはどこか。いや、キャラを着込んだあの漫才は、いわば「漫才」というタイトルのコントであって……みたいな話はややこしいのでやっぱりしない。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2023/02/27 18:50
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