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“神ドラマ”『silent』の特徴的な音とセリフの使い方を解説――『語りたくなるドラマ』の演出法

神ドラマ『silent』の特徴的な音とセリフの使い方を解説――『語りたくなるドラマ』の演出法の画像1
フジテレビ『silent』オフィシャルサイトより

 かつてのドラマにはない盛り上がり方を見せている、川口春奈が主演、Snow Manの目黒蓮が出演するドラマ『silent』(フジテレビ系)。TVerにおける各回の再生数が歴代最高記録を更新し続けるなど、視聴率以外のアピールをするドラマとして、テレビ業界でも大注目されている。

「視聴率は、第5話と6話で過去最高の7.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)ですが、番組自体の盛り上がりを見るとちょっと寂しい数字。すでにフジテレビは、TVerや自社の配信サービス『FOD』の再生回数を増やすことに注力するようシフトしています。宣伝部も、視聴率はそっちのけで、とにかくTVerでの再生数が高いことをアピールしている。見逃し配信は若い視聴者数も多いこともあり、ある意味、視聴率を度外視した新しい形のドラマとなっています」(民放関係者)

 現在でも、テレビ局では「高視聴率」が絶対的なキーワードとなっているが、『silent』は新しいビジネスモデルを開拓するかもしれないと言われている。

「電通や博報堂などは、いまでも高視聴率番組に広告単価の高いスポンサーを手配する仕事がメインです。ただ、多くのナショナルクライアントから、視聴率の質や年代のデータも求められるようになってきた。中には、番組の内容がSNSでバズることを最優先にするクライアントも現れ始めています。さらに、スマホで集中して見るTVerは広告スペースとして最も注目されていて、今回の『silent』の再生数の多さは今後の指標になりそうですね。SNSでの話題の広がりもすさまじく、放送直後には3週連続でTwitterの世界トレンドで1位を獲得。番組公式アカウントだけでなく、出演者やプロデューサーの村瀬健氏も頻繁に裏側をつぶやき、人気となっています」(スポーツ紙記者)

 「テレビ離れ」が激しいと言われる若い世代も虜にする『silent』。そこには、他局のテレビマンもうならせるような、制作陣のこだわりが感じられるという。

「11月10日放送の第6話では、ろう者として出演する桃野奈々(夏帆)が、ハンドバッグを憧れの表情で見ているシーンがある。これは、片手が塞がると手話の妨げになるので、奈々が普段はリュックで過ごしているということがのちのシーンでわかります。この演出には多くの人がTwitterで感想を述べ合い、手話エンターテイナーの那須映里氏もコメントして、手話に対する理解を深めるきっかけにもなった。

 また、第5話で主人公の青羽紬(川口春奈)と戸川湊斗(鈴鹿央士)がそれぞれの家から電話で会話するシーンでは、2班体制にすることで、実際に通話する2人を同時に撮影。ドラマや映画では普通、労力や技術的なハードルから別々に撮影することが多く、あまり見られない手法です。さらに、主要キャラクターの名前について、ろう者やその関係者は『桃色』、聴者を『青』の入った名前にしているという考察も盛り上がった。こういった細かい演出は、視聴者が誰かに話したくなる。まさに『語りたくなるドラマ』というのが、『silent』人気の理由のひとつでしょう」(民放関係者)

 過度な演出がないにもかかわらず、随所で輝くようなセリフや行動がある。他局のドラマプロデューサーも、『silent』の巧みさを参考にしているという。

 また、回想シーンを入れ込む上手さも特筆すべきだ。

「現在進行系で進むストーリーと、過去の回想がうまく絡み合い、さまざまな伏線回収を行っている。紬と湊斗が別れた後のシーンでは、2人が付き合いはじめて幸せだった頃の回想へシームレスに結びつけていました。ドラマを作る上で、回想シーンはどうしても辻褄あわせや説明に使われることが多いのですが、『silent』に限ってはそれすらも、物語に深みを与える要素にしていた。全体的に言えるのですが、変にセリフや説明を入れないことで、出演者たちの心情を視聴者に投げかける“神演出”となっています」(同上)

 そんな中でも、視聴者を虜にしているのが「音」の演出だと、他局でドラマ制作にかかわるスタッフは話す。

「準主役の佐倉想(目黒蓮)が、本編でほとんどセリフを話せないというのも難しいところ。過去には、酒井法子が耳と口が不自由な孤児を演じた『星の金貨』(日本テレビ系、1995年)がありましたが、『silent』は手話の使い方と音の表現が格別。BGMが少なく、その場の空気感をしっかりと感じられる演出となっています。耳が聞こえなくなった想の世界と、音が聞こえる紬の日常を、視聴者も違和感なく体感できるんです。

 また、想や奈々が手話で会話するシーンでは、腕の動きや服の擦れる音などがリアルに感じられ、そこも感情移入できるポイントですね。具体的に言うと、第6話で、2人が図書館で手話を使って会話するシーンがありましたが、そこでは服のこすれる音だけが使われていた。並みの制作陣なら、静寂が怖くてBGMを入れてしまうところですが、これは演出の風間太樹氏の手腕によるところだと思います」

 また、そのこだわりは、Official髭男dismの主題歌「Subtitle」にも感じられるという。

「同曲はドラマでは主にエンディングで使用されますが、BGMや挿入歌が少ない中で重要な楽曲となっています。『Subtitle』は、いま流行りの“ゼロイントロ(曲がスタートして直ぐに歌が始まる、イントロが0秒のこと)”で作られており、序盤は音数の少ない構成で、ドラムやベースなどの低音が少なく、劇中でかかってもセリフが聞こえやすい工夫がされています。

 同曲は1分8秒で最初のサビに突入するのですが、これもエンディングで盛り上がる部分をクライマックスに持ってきやすい尺ですよね。また、歌詞も物語とリンクしている部分が多く見受けられるのも『語りたくなる』ところ。ヒゲダンは過去に『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)でも主題歌の『I LOVE…』を提供して、劇中で効果的に使われていたのも記憶に新しい。まさに、“主題歌職人”としての腕を見せつけた形になりました」(民放関係者)

 勢いが止まることを知らない『silent』。しかし一部では、最終回に向けて心配する声も聞こえてきた。

「脚本家の生方美久氏は、最近まで看護師として働いていた29歳の新人です。連続ドラマデビュー作でいきなりの社会現象となり、かなりのプレッシャーを感じているようですが、無理もない。生方氏が描くセリフのテンポと登場人物が人気なだけに、万が一にも倒れたりしないように、フジテレビは全面バックアップしているといいます。特に、プロデューサーの村瀬氏は、日本テレビでも『14才の母』(2006年)を作り、フジテレビに移籍してからも『BOSS』(09~11年)シリーズなどを手掛けたやり手。制作スタッフにも檄を飛ばして結束を固め、生方氏も含めた『村瀬組』が出来上がっているという。何があっても全責任を取るから、思った通りにやってくれと、生方氏や演出の風間氏に伝えているそうです」(同上)

 出演者含め、スタッフも大きな絆で結ばれている今回の『silent』。ドラマの評価は視聴率だけで測れるものではないと教えてくれる作品だ。

小林真一(フリーライター)

テレビ局勤務を経て、フリーライターに。過去の仕事から、ジャニーズやアイドルの裏側に精通している。

こばやししんいち

最終更新:2022/11/20 08:00
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