男性が恐れるべきフェミニズム映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』の魅力
#ヒナタカ
凝り固まったジェンダーロールの押し付け
その理想郷(ユートピア)のような街には、「一皮むけば不都合なものが排除されていることがわかる」グロテスクさがある。さらなる恐怖の本質は、「凝り固まったジェンダーロールの押し付け」。例えば、「街のルール」は以下のようなものだ。
【街のルール】
夫は働き、妻は専業主婦でなければならない
パーティーには夫婦で参加しなければならない
夫の仕事内容を聞いてはいけない
何があっても街から勝手にでてはいけない
つまり、「夫が外に働きに出て、妻は家を守るべき」をという旧態依然とした役割分担を超えて、「妻は夫に何ひとつ不平不満を言わずに従属するべき」という、画一的かつ独善的な価値観がまかり通っているのだ。しかも、街の名前はよりにもよってビクトリー(勝利)である。
ある意味では、オリビア・ワイルド監督の前作『ブックスマート』と、表裏一体の内容だ。そちらはレズビアンの親友の恋路を当たり前に応援する姿や、「リア充」と思い込んでいた生徒たちも悩みを持つ等身大の若者として描かれる青春コメディだった。対して『ドント・ウォーリー・ダーリン』は画一的なジェンダーロールが描かれるスリラーなのだが、つまるところ「多様性」や「自由意志」の必要性を訴える点に置いて、作り手の意志は一致していると思うのだ。
『ミッドサマー』を連想する理由と、悪役の見事なキャスティング
本作を観て『ミッドサマー』(2018)を連想する方も多いだろう。そちらは、無神経さに満ちた男性グループの中にいた女性が、異常な風習のある村で恐ろしい体験をするという内容。女性が遭遇するひどい経験を通じて、男性権威主義的であったり、画一的な価値観への批判も込められていたのだ。しかも、どちらも主演はフローレンス・ピューであり、予測不能な事態に翻弄され続ける物語であることも一致している。
この『ドント・ウォーリー・ダーリン』でも次第に精神的に追い詰められていくフローレンス・ピューの演技力が卓越しているのはもちろん、会社のCEOで、市長であり、社会的指導者であり、そして男性にとっての「良心」でもある役に、クリス・パインをキャスティングするのも見事という他ない。
物語上ではクリス・パインが悪役であることは明らかなのだが、『スター・トレック』(2009)などでヒーローを演じたおかげもあってか、とことん善人に思えるイメージがあり、しかもカリスマ性を持ち合わせているからこそ、「独裁者が自分の正しさを信じている」ような言動のギャップが恐ろしくなるのだ。
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