格闘技イベントRIZINが宿す『誇り』の正体【特別無料公開】
#RIZIN #朝倉未来 #メイウェザー
鳴神どもの矜恃──格闘技イベントRIZINが宿す「誇り」の正体 ①
1.失われた大会総括と取材拒否通告
格闘技史上でも特筆されるであろう絶頂を極めた至高の舞台。そこは「終わりの始まり」への入り口でもあったのだろうか。
2022年6月19日、東京ドームで開催された「THE MATCH 2022」。メインイベントでは那須川天心と武尊が文字通り死力を尽くして雌雄を決した。客席を埋め尽くした5万6399人(主催者発表)の観客は白熱のスーパーファイトに打ちのめされた。
激闘の余韻も冷めやらぬ翌日の昼過ぎ。東京ドームホテルでは一夜明け記者会見が始まろうとしていた。
大会実行委員の一人で、総合格闘技イベント「RIZIN」の運営会社・ドリームファクトリーワールドワイド(DFWW)代表を務める榊原信行は開始の10分ほど前に会場に姿を現した。
「もう着るワイシャツがないよ」
開口一番そうこぼす。「夢の対決」の前後、人前に出る機会が多すぎて衣装の調達が間に合わないらしい。関係者とのおしゃべりはしばし続いた。
「バラさんは誰のことも信用しない」
「昨日の配信では歴史を作りましたね」
「トラブルがなくて本当によかった」
「あのままフジテレビに乗っていたら、時代が動くことはありませんでした」
「ペイパービュー(1本の番組を視聴する度に課金するサービス。以下、PPV)ビジネスの市場は国内にあると証明できた」
「夢は100万件。頑張りましょう」
登壇までの話題は大会のPPVをめぐる儲け話ばかり。死闘を制しキックボクシングを引退した那須川。一敗地にまみれて全てを失ったかに見えた武尊。二人の主役をはじめ、出場選手や試合への称賛や慰労は一言もなかった。
もっともな話ではある。紙芝居屋は「紙芝居」自体を売っているわけではない。利ざやの大きい「飴」を商う。その目的のために手段として紙芝居を用いているだけだ。試合そのものよりも配信ビジネスの上がりにより強い関心を持つ。そんなプロモーターがいたとしても、罪にまでは問われないだろう。
だが、榊原の行状には別の意味で疑念を抱かざるを得ない。ここ3カ月ほど、格闘技や興行関係者への取材を続けてきた。その過程で疑念は晴れるどころか膨らんできている。
「PRIDEが始まったばかりの頃。側近の加藤浩之(後に総合格闘技イベント「DREAM」でマッチメイクを担当)が『バラさん(榊原)は誰のことも信用しません』とつぶやいた。今でも忘れられません」(格闘技関係者)
検証不可能な「大本営発表」
一夜明け会見のプレスリリースには榊原、K-1プロデューサー・中村拓己、RISE代表・伊藤隆と、3人の実行委員の氏名が列記されていた。大会当日、実行委員による総括の場は設けられていない。会場である東京ドームのインタビュールーム。DFWW広報スタッフは「一夜明け会見では実行委員が登壇し、総括を行う」旨を明言している。
13時の定刻に会見は始まった。冒頭で司会者が4部構成からなる会見の次第を説明する。だが、そこには実行委員による総括はなかった。変更について何ら説明もない。ほぼ満員の記者席からも疑問の声は上がらなかった。
会見の1部には榊原とサイバーエージェント執行役員・藤井琢倫が登壇。自画自賛そのもののような発表を行った。
「恐らく(PPVの)日本格闘技史上最多」
「地上波がなくなって一気に時代が動いた。歴史的な一日になりました」
これまた「主催者発表」以外の何物でもない。検証の手段がない以上、「大本営」から下げ渡された情報を信じるほかないのだろう。だが、プロの中には次のような声もある。
「成功には違いないでしょう。ただ、ちょっとサバを読みすぎじゃないですか」(芸能プロダクション関係者)
「ゲート収入、PPV売上件数ともに眉唾ですね。そんなに儲かったのなら、ABEMAはなぜメインだけ無料で垂れ流したのか?」(格闘技関係者)
1部が終わった時点で会見場にいたDFWW広報担当者に確認した。
「実行委員による大会総括はないんですか?」
怪訝そうな表情を浮かべたその人物は同社の広報事業部長・笹原圭一に確認し、答えた。
「なくなりました」
「いつやるんですか?」
「今後も予定はありません」
「じゃあ、なぜプレスリリースに明記したんでしょう?」
担当者は再び笹原におうかがいを立てる。
「リリースは『あくまで予定』ということです」
どうしても聞いておきたかったこと
リリースに書いた内容を常に100パーセントそのまま実行しろとまでは言わない。だが、自らが報道陣にも明言した中身をわずか10数時間後に変更するのであれば、相応の説明責任が生じる。広報の体制よりもむしろ企業としてのガバナンスの問題だろう。
大会総括の席で実行委員にどうしても質しておきたいことがあった。私が準備した質問は後述する事情から後に示す質問状にまとめることになる。この時点ではまだ榊原と対面の上、直接ぶつけるつもりでいた。だが、その機会は主催者側の都合で一方的に奪われてしまう。
翌6月21日、DFWWのウェブサイトから榊原への取材を申し入れた。目的は榊原とDFWWに関していくつか確認したい点を尋ねること。22日、担当者から返信をメールで受け取った。
〈お申し込みいただきましたインタビューに関してですが、広報局長(筆者註・RIZIN公式サイトによれば笹原の役職は「広報事業部長」。直属の上司の肩書を誤記したらしい)が総合的に判断した結果、お断りさせていただきたいと存じます。〉
取材は拒否された。ある格闘技関係者は苦笑を交えてこう語る。
「そりゃ榊原にしてみれば、今、片田さんに会うのは怖いよね」
何がどう怖いのか。話は5月31日にさかのぼる。この日、大会まで3週間を切った時点でフジテレビは「THE MATCH 2022」の放送中止を発表。実行委員会は緊急記者会見を開いた。
会見の席上、榊原をはじめ、実行委員に私はいくつか質問をした。詳細についてはすでにリポートにまとめている。
会見の一部始終はYouTube「RISE公式チャンネル」で公開されている動画でも確認可能だ。
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