未成年の視力低下問題の中… 慶應大が近視進行の分子メカニズムを解明
#鷲尾香一
文部科学省の21年度の「学校保健統計」によると、裸眼視力が1.0未満の割合は幼稚園(5歳以下)で24.8%、小学校で36.9%、中学校で60.3%、高校で64.4%にのぼり、視力低下は大きな問題となっている。慶應義塾大学の研究チームは10月11日、近視が進行する分子メカニズムを解明したと発表した。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2022/10/11/28-132566/
近視は目の前後軸の長さが伸びることで起きる。角膜頂点から網膜までの長さ(眼軸長)が伸びると、それに伴い網膜も後方へと牽引され結果として網膜の手前に焦点を結ぶこととなり、近視となる。また、この形態の変化によって目の後ろに物理的負荷が加わり、網膜剥離や黄斑症、視神経症などの失明につながりうる合併症が引き起こされる。
眼球は強膜(いわゆる白目の部分)と呼ばれる眼球の最も外側に位置する、主にコラーゲン線維と線維芽細胞からなる組織によって維持されている。近視は眼球の形態変化を伴うため、研究グループは強膜に着目することでその分子メカニズムの解明を行った。
具体的には、研究グループが開発したヒトの近視と同様に眼軸長が伸び、強膜が薄くなっている近視モデルマウスにより行われた。モデルマウスの強膜を透過型電子顕微鏡で観察すると、近視強膜の線維芽細胞では、粗面小胞体の膨張が観察された。これは小胞体の中に、折り畳み不全のタンパク質が蓄積したときに認められる所見で、この状態のことを小胞体ストレスと呼ぶ。
近視モデルマウスには小胞体ストレスが生じていることはわかったが、これは近視になったから生じているのか、それとも生じるから近視になるのかの因果関係は明らかではなかった。そこで、タンパク質の正常な高次構造形成を促進することで小胞体ストレスを減弱させる低分子化合物(4-PBA)を近視誘導時に点眼投与し、近視が抑制されるかどうかを検討した。
その結果、低分子化合物を含む溶液を点眼したマウスは、含まない溶液を点眼したマウスと比較して、小胞体ストレスが活性化しなかった。さらに低分子化合物の濃度が高いほど、眼軸長の伸長と屈折度数の低下が抑制された。
そこで、小胞体機能を担う酵素を阻害することで実験的に小胞体ストレスを誘導することができるツニカマイシンを点眼投与すると、強膜小胞体ストレスが一過的に誘導できることを見出した。強膜小胞体ストレスを誘導することで近視化が生じるかを検討したところ、非投与眼と比較して投与眼では眼軸の伸長ならびに屈折度数の低下が認められ、強膜小胞体ストレスの誘導により近視が生じていることが示された。
これは、強膜小胞体ストレスが近視発症・進行の仕組みであることを示し、小胞体ストレスを制御することによって効果的に近視進行を抑制できることを示している。
近視は患者数の多さおよび視覚障害の危険性を有しているにもかかわらず、効果的かつ安全に眼軸伸長を抑制する薬剤はない。今回の研究で、増加の一途をたどる近視に関して、強膜に生じる小胞体ストレスが近視進行の中心的役割を担っており、その制御により近視進行を抑制することができることを解明された。
研究グループでは、「近視進行の原因となる分子メカニズムを見出したという点で、今後の近視治療の研究を促進するだけでなく、研究で見出された4-PBAは近視の治療を可能とする効果的で安全な薬剤治療の創出に繋がるという点で、社会的意義が極めて大きいと考えられる」としている。
今回の研究成果は、10月10日に学際的総合ジャーナル Nature Communicationsに掲載された。
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