『天間荘の三姉妹』周りを変えていく、天真爛漫なのんの唯一無二の魅力
#のん #ヒナタカ
尊いテーマと、連想したアニメ映画
本作の主たるテーマは、「愛する人の死にどう向き合えばいいか」「辛い悲劇が起きるこの世で生きる意義とは何か」といった普遍的なもの。もっと言えば「生と死」を包括した、とても広く普遍的なメッセージが込められていると言っていい。その根底には痛ましいという言葉でも足りない、2011年の東北大震災の悲劇がある。
原作者の髙橋ツトム自身、東日本大震災を受けて執筆した作品であり、被災していない 自分がやっていいのかという葛藤もあったが、少しだけでも“鎮魂”になればと覚悟を決めて描き始めたのだという。とはいえ、震災の記憶が人々にとって新しく生々しい時期に映画化はできないという判断から、本格的に舵を切ったのは2019年になってからのこと。企画当初から実に8年という月日がかけられた作品でもあるのだ。
今はコロナ禍も続いており、より生きることそのものが困難な時代になっているからこそ、作中のメッセージは全ての世代に分け隔てなく届くものだろう。特に、SNS時代ならではの絶望の縁にいた山谷花純演じる少女のエピソードは、若い人にこそ観てほしいと強く思えるものだっていた。
また、本作は主演がのんで、プロデュースが真木太郎という布陣から「『この世界の片隅に』(2016)のスタッフが再集結」という触れ込みも打ち出されている。そして、同じくアニメ映画であれば、老舗旅館を舞台にいくつかのエピソードが展開する点などから『若おかみは小学生!』(2018)を連想する方もいるのではないか。こちらも「愛する人の死」という逃れられない悲劇から、どう未来へ歩んでいけばいいかということを誠実かつ丹念に綴った優れた作品でもあったのだから。
反面、この『天間荘の三姉妹』で個人的に少し残念だったのは、シーンの繋ぎがやや唐突に思えたことや、言動がストレートすぎるがゆえの説教くささや、スピリチュアルな宗教映画っぽさが拭えないことだろうか。序盤はコミカルなやり取りが多いこともあって違和感がなかったのだが、後半では「こんなことをここで言うかな?」と思ってしまう過剰なセリフもあるため、興醒めしてしまう人もいると思う。とあるラブシーンは挑戦的で意義もあるのだが、悪い意味で居心地の悪さを覚えてしまいかねない。そもそものメッセージも、「天界と地上の間にある世界」というファンタジー設定ありきのものなので、欺瞞に感じてしまう方もいるのかもしれない。
とはいえ、全体的にはスタッフとキャストたちが一丸となり誠心誠意作り上げた、大切な人を亡くした人、また現状に生きづらさを覚えている人にとっては福音となるかもしれない、意義深い映画であることは間違いない。何より、前述したようにのんというその人はもちろん、俳優としての唯一無二の魅力も最大限に発揮されている様を、ぜひスクリーンで堪能してほしい。
のん、地上波ドラマから“完全排除”でも根強い支持! 忖度や圧力の及ばないCM・映画・舞台に活路
「週刊文春」(文藝春秋)による恒例企画「好きな・嫌いな俳優アンケート」の2021年版の結果が「文春オンライン」で発表された。「好きな女優」部門では、大活躍中の綾瀬はる...『天間荘の三姉妹』10月28日金)全国公開
監督:北村龍平
脚本:嶋田うれ葉
出演:のん 門脇麦 大島優子 高良健吾 山谷花純 萩原利久 平山浩行 柳葉敏郎 中村雅俊 三田佳子 永瀬正敏 寺島しのぶ 柴咲コウ
プロデューサー:真木太郎(「この世界の片隅に」)
音楽:松本晃彦
原作:高橋ツトム 『天間荘の三姉妹-スカイハイ-』(集英社 ヤングジャンプコミックス DIGITAL 刊)
配給:東映
C) 2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
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