反レイシズム以外の政治的ラップにフェミニズムとの対峙… HIPHOP批評家バトル勃発!
#ヒップホップ #つやちゃん
ビートメイカー/トラックメイカーから解釈する日本語ラップ
――もうひとつ、日本語ラップ史における評価が進んでこなかった側面としてビートメイカー/トラックメイカーもあると思います。本書では、EL NINOはじめその線もできるだけ拾い上げようという姿勢を感じました。
韻踏み夫 ビートメイカー/トラックメイカー史もある程度浮き彫りにしたい、というのはかなり意識しました。ヤン富田からDJ KRUSHに始まり、DEV LARGEがいてBACH LOGICがいて、MONJUがいて、OLIVE OILがいて、今だとChaki ZuluやRAMZAがいるみたいな。
自分はリリック分析から日本語ラップ批評に入っていったので、ビートをおざなりにしてきた罪悪感みたいなものがあるんです。書籍では、不器用なりにビート分析というのも頑張って試みてみました。たとえば吉田雅史さんとかはビートについて精緻に論じることができるし、そういった方にバトンを渡す意味でも今回トライしてみた感じです(笑)。
――ちなみに、ビートやトラックという観点で、韻踏み夫さんが個人的に好きな作品はどのあたりなんですか?
韻踏み夫 今回改めていろいろ聴き直す中で、ECDの『失点in the park』はすごいなと思いました。近年USでアルケミストやアール・スウェットシャツまわりの新しいBoom Bapが流行ってるじゃないですか。あのあたりの耳で聴くと、ちょっとこれが2003年リリースというのは信じられないですね。ザラつき方やヨレ方が面白くて、今聴いても十分新しい。
――今の日本語ラップの現行シーンでもアルケミスト周りのフィーリングをうまく取り入れられている例ってあまりないですよね。やっぱりジャズやソウルのバックボーンが必要で、それがないとああいう音のテクスチャにはなりにくいのではないでしょうか。だけど、2003年にECDの作品が近いことをやっているんだと。
韻踏み夫 アーマンド・ハマーとかは結構政治的な作品も出しているんですよね。ECDの『失点in the park』はまさにそういった、政治的な前衛性と音楽的な前衛性が一緒になっていて美しい。
――もう一点伺いたかったのが、Dragon Ashについてです。本書では掲載がありませんが、そこには韻踏み夫さんなりの逡巡があったのではと想像します。
韻踏み夫 今回は、やはり日本語ラップオタクから見たシーンの王道の歴史を考えたかったんですよね。昔だと『blast』を読んでいたようなリスナーの系譜というか。Dragon Ashは非常に重要ですが、そういった視点で見ると彼らの一番の功績は「Grateful Days」だと思うので、第二部の扉ページで一応触れました。ただ、名盤ということで考えるとちょっと違うかなと。これは、あるいはミクスチャー問題とも言えるかもしれませんが。
――なるほど。kZmや(sic)boy、JUBEEをはじめとした流れの中でミクスチャーの再評価というのが近年進んでいるのもあって、個人的には入れてもいいのではと思いました。
韻踏み夫 確かに、今のシーンはもう一回ロックが大事になってきてますからね。入れてもよかったのかも……Gas Boysを入れて満足してしまった。
――いや、でも意図を聞いて納得しました。ネットラップやウエストコーストのヒップホップについても、一応紹介されてはいるものの少ない気がしたんです。それらも含めて、日本語ラップオタクの視点と言われるとすごく納得がいく。
韻踏み夫 つやちゃんさんは、もうちょっと斜めから入りたいタイプの人でしょう。
――こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、私はチャラいヒップホップも拾っていきたいタイプなので(笑)、そうかもしれないです。目を凝らして、そこで見過ごされている音楽性について拾っていきたいというか。
韻踏み夫 ですよね。自分は、もうちょっと暑苦しいタイプ(笑)。
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