NETFLIX『Mo/モー』湾岸戦争を逃れたパレスチナ人が難民からアメリカ国民になるまで壮絶人生
#Netflix #スタンダップコメディ #Saku Yanagawa
現地化されたソウルフードへの怒りが物語る悲哀
スーパーで見かけたフムスに怒るシーンは、本作のハイライトかもしれない。フムスはパレスチナのソウルフード。ひよこ豆をペースト状にして、ピタなどをディップして食べる。アメリカにも浸透しているが、独自の発展を遂げ、アメリカナイズドさせたフムスがレストランやスーパーに並ぶ。チョコレート味のフムスを見かけたモーが「こんなのインチキだ」と店員に難癖をつける。
アイデンティティと密接に結びつく「食べ物」がアメリカで形を変えたことを題材にする手法は、これまでも多くの作品で見られてきた。
すべてのスタッフとキャストをアジア人で固めた『フラワー・ドラム・ソング』(1961年)では、アメリカ生まれの中国系移民を、アメリカで発明された中華料理「チャプスイ」に例え、多くの具材が混ざり合いそれぞれの個性を生かしあって生きている様子を同名のミュージカルナンバーにして、アカデミー賞も受賞した。幼くしてアメリカに渡り、アメリカの文化も享受しながら育ったパレスチナ系の自らを、アメリカのフムスに重ねているようにも感じられた
そして、本作で、モーは絶えず自分の「居場所」を探し求め奔走し続ける。
実際、9歳でアメリカにやってきたモーの難民申請が通り、正式にアメリカ市民になるまでには実に18年の年月を要した。その間、パスポートを持つことも叶わなかった。自分という存在を、国からも、周りの人々からも認めてもらえない状況へのもがき、そしてアメリカから「国家」としても認められないパレスチナそのものの姿が、重なって映し出される。
そんな彼がまさに自分の「居場所」として見つけたのがスタンダップコメディのステージだったことは言うまでもない。
同じくネットフリックスで2021年に配信されたライブスペシャル『俺はテキサスのモハメド』では、先述の『Mo/モー』の「元ネタ」がふんだんに披露されている。アラビア語と英語の差、そしてフムスのくだりまでほぼそっくりそのままに。ドラマで見る「俳優」のモーよりも、本来の姿であるスタンダップコメディアンのモーはよりリアルにそして魅力的に見える。
そのひとつひとつのジョークに「地元」ヒューストンの観客は大爆笑で応えた。
スタンディングオベーションで彼を見送る満員の客席に、アメリカに渡ったモー・アマーがやっと見つけた本当の「居場所」を見た気がした。最後に彼はこう締めくくった。
「俺はテキサスのモハメド。アラブ・アメリカン、パレスチナ系のコメディアンだ」
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