深田晃司監督が映画界のハラスメント構造を解く 権威者のいる業界ほどセクハラの温床に
#映画 #インタビュー
男性審査員が多いことは、なぜ問題なのか
――映画界のジェンダーバランスが不均等であることを1年半がかりで調査したわけですが、数値化したことでハラスメント問題は解決に向かいますか。
深田 まずは現状を認識することが重要だと思います。改善していくためには、社会にデータを示していく必要があります。そこから自由に議論を始めようということです。もちろんハラスメント行為は加害も被害もどのジェンダーでも起こりえるものですが、圧倒的に多いのは男性から女性に対するセクハラである以上、そこをどう減らしていけるかをまずは考えるべきです。その前提としてジェンダーの不均衡があるはずです。
――映画賞の審査員は男性が多い、というのは盲点でした。女性の映画ライターや映画誌の編集者は多いので意外に感じます。
深田 女性編集者が多くても、編集部の編集長クラスは男性であることが多いんじゃないでしょうか。企業に女性役員が増えてきていますが、決定権を持つ上の役員は男性であることがほとんどです。僕の場合、女性プロデューサーと仕事をすることが多いのですが、何人かいるプロデューサーの中のひとりであって、出資した企業の決定権を持っているようなプロデューサーは男性であることが多いように感じます。数値には見えない問題もまだまだあると思います。
――男性審査員の多さが、映画賞の男性受賞者の多さにも繋がる。この点について、補足説明してもらえますか。
深田 実際のところ、男性審査員の多さが男性受賞者の多さに直結しているという以前に、表現の当事者になれているのが男性ばかりであるという前提が大きいのだと思います。ではなぜ当事者性の偏りが問題なのか。イギリスの歴史学者E.H.カーが執筆した『歴史とは何か』という本に僕は強い影響を受けたのですが、彼は歴史とはあくまで歴史家が叙述したものであり、どんなに客観的に歴史を書こうとしても、歴史家自身が自身の出自や属性などの無意識の領域からの影響から逃れることはできないことを指摘しています。人間はどうしようもなく「無意識」から影響を受け続ける存在です。僕も映画賞の審査員を務めたことがあります。男性だから男性を受賞させようと考えたことはありませんが、その判断は私自身の無意識の影響からは完全に自由になることはできません。私たちは常に「無意識のバイアス」の影響下にあることを考慮しなくてはいけないでしょう。男性審査員だから男性受賞者が増えるかどうかという点が重要なのではなく、いろんな属性、多様な価値観を持った人たちそれぞれがきちんと表現の現場に関われることこそが重要だと考えています。
――「マタイ効果」という言葉を、深田監督は「ジェンダーバランス白書」の中で使っています。
深田 条件に恵まれた研究者は優れた業績を上げることで、さらに条件に恵まれるという現象を指した言葉です。映画製作は経済的にハイリスクな表現ですから、実績のあるキャストやスタッフが起用されやすくなります。映画監督も、ヒットを出した監督や受賞経歴のある人がより選ばれます。評価される映画をつくった人が次作をつくりやすい状況を勝ち得ること自体は自然な流れで、そこに良し悪しはないのですが、一方でそういったマタイ効果は、元々の偏ったジェンダーバランス、当事者性の不均衡を再生産し続ける結果に繋がることは強く意識する必要があります。そこを是正し、当事者性の多様さを広げていくためには、意識的に流れを変えていくためのアクションを起こす必要があると思います。
――富める者がますます富めることになる。現代の格差社会と通じるものを感じます。
深田 通底する問題でしょうね。(2/4 P3はこちら)
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