“巨大イカ像”経済効果6億円で掌返しの称賛を浴びる能登町に聞く騒動の舞台裏
#地方創生 #小笠原伸 #新しいニッポンの地方創生
学校にスーパー、銀行の支店、生活の一部が消えていく危機感
――イカを町おこしの中心に据えるようになったのはいつ頃からなのでしょう?
灰谷 観光に活用していこうとはっきり動き出したのは2005年の市町村合併後です。一般的に、イカで有名な地域というと函館、八戸、呼子などがあがると思います。でも実は、漁獲量でいえば能登町は全国で2,3位なんですね(市町村別。2017年2位、2018年3位)。じゃあなぜそれほど知られていないかというと、半島の先端部に位置するリアス式海岸という地形から土地と水が足りず、獲れたイカを加工する産業が発展できなかったためだと考えられています。イカそのものを供給するだけになってしまっていたんですね。
ですが、地元を見直したときに、やはりイカは強みだろう、と。2015年度には、地元の小木小学校が全国唯一の海洋教育カリキュラムを行う文部科学省の特例校になりました。海の生物や海の生業を学ぶ授業を行っています。土地の特性が、探究心を深めていく教材になるわけです。我々が普段暮らしている当たり前の場所が実は強みを持っている。「何もない場所だね」と言って諦めてしまわずにあらためて見直してみようという中で、全国でトップを獲る可能性を秘めた要素としてイカに焦点を当てることになりました。
――サイゾーの昨年の記事では、能登町の人口の少なさや老年人口の高さといった背景を踏まえるべきだという指摘をしています。実際、そうした危機感は地元ではどれくらい共有されているものなんでしょうか?
灰谷 2020年時点で能登町の人口は1万5687人となっています。市町村合併から、5年で1割人口減していくのが我々の町です。高齢化率も5年ごとに5%ずつ上がっていって、今は50%を超えました。とはいえ能登町全体で見たときに、人口減自体は1950年からずっと続いていることです。だから地域のみなさんにとって人が減っていくのは当たり前のことになってしまっているんですね。ただ、小木地区では、2008年から2009年にかけて高校の分校がなくなりスーパーマーケットがなくなり石川県で一番大きな地銀さんの支店が撤退する出来事が立て続けにありました。生活の一部が消えてなくなっていくのを体感した地域なんです。それがあって、かなりの危機感が生まれていたところはあります。
小笠原伸教授(以下、小笠原) ありがとうございます。前提となるご説明をいただいたところで、より踏み込んだ質問をさせてください。まずあらためて申し上げますと、私は当時、あんなに批判的な反応が盛り上がった理由が全然わからなかったんです。研究者の習性として、ある地域の話を聞いたらまずはRESASを開くんですね。能登町さんのデータを見れば、人口減が著しく進む地域で活路を見出すためのアイデアなんだとすぐわかりました。そしてイカというモチーフが単なる思いつきではなく長年の積み重ねの上にあることも、少し調べればわかります。国からの交付金の使い方としても適切でした。にもかかわらず、なぜ炎上してしまったのか。全国的なニュースになっていった経緯をお聞かせ願えますか。
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