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『耳をすませば』懐疑的なファンにも観てほしい「大アリ」な実写映画版である理由

中学生時代の役者たちの素晴らしさ

『耳をすませば』懐疑的なファンにも観てほしい「大アリ」な実写映画版である理由の画像5
C) 柊あおい/集英社C) 2022『耳をすませば』製作委員会

 豪華な布陣の大人の役者たちはもちろん、中学生時代を演じた若手役者たちも素晴らしい。特に元気いっぱいな天真爛漫さを見せる安原琉那、良い意味でとっつきづらさや飄々とした雰囲気のある中川翼は、アニメ版のそれぞれのキャラクターのイメージにぴったりで、しかも大人時代の清野菜名と松坂桃李にもよく似た、これ以上のないベストな配役および演技だったのではないか。

 この中学生パートでは雫が「やなやつ!やなやつ!」と言うなど、「アニメ版で観た有名シーンが実写でも再現されている」ことにもシンプルな面白さがあった。良い意味で一昔前のアイドル映画のような、若々しい役者たちの時間を切り取ったような贅沢さを期待しても裏切られないだろう。

 また、大人パートでは1990年代の風潮や流行が取り入れられており、保守的な企業の対応や1997年公開の映画『タイタニック』への言及があることも面白い。やはり「あの頃」のノスタルジーに浸れることも、『耳をすませば』らしさだろう。

十分な戦略を持って挑み、成功した実写映画化

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C) 柊あおい/集英社C) 2022『耳をすませば』製作委員会

 これまで記してきたことは、それでも「ファンからの賛否両論はありそう」とも思える要素だが、「地球屋」の美術は観た人全員が賞賛するほどのものではないか。アニメで観た、雑多であると同時に、その全てが美しいその光景が、実写で見事に「そこにある」ことに感動させられたのだ。

 総じて、この実写映画版『耳をすませば』は、どうやってもファンからの文句が出そうな、かつ一本の映画として成立させることが難しく思える企画について、十分な戦略を持って挑み、成功していると思えるところが多い。少なくとも、筆者個人は前述してきた特徴の多くがアリ、いや「大アリ」だと思えたのだから。

 何より、「大人になって変わってしまった夢への向き合い方」という、『耳をすませば』という作品があってこその、説得力のあるテーマを紡ぎ出したことに、大きな意義がある。アニメから実写へと表現方法が変わったことにより、より「現実的な夢」を際立たせる効果を生んでいたとも言えるだろう。

 ちなみに、本作はもともと2020年9月に公開予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大により海外への渡航及び撮影が一旦中止になったため、2年以上の公開延期を得て完成した作品でもある。初めに掲げた西麻美プロデューサーの言葉も鑑みれば、より「やっとの思いで世に送り出せた」、そして『耳をすませば』が大好きな人間が”ひとつの形”を成し遂げた作品であることがわかるだろう。

 正直に申し上げれば、現実的な問題を丹念に描いている作品であるからこそ、終盤の展開にもう少し説得力を持たせられなかったのかなどと、残念に思う部分もある。だが、それ以外は極めて誠実に、真っ当に作られた実写映画化作品だった。『耳をすませば』のファンこそ観てほしい作品であるし、そうでない人でも楽しめる内容でもあるし、そして夢についてのメッセージは多くの人にとって福音になり得る。ぜひ、映画館で観届けてほしい。

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C) 柊あおい/集英社C) 2022『耳をすませば』製作委員会

『耳をすませば』

10.14 ROADSHOW
出演:清野菜名 松坂桃李 山田裕貴 内田理央 / 安原琉那 中川翼 荒木飛羽 住友沙来 音尾琢真 松本まりか 中田圭祐 小林隆 森口瑤子 / 田中圭 近藤正臣
原作:柊あおい「耳をすませば」(集英社文庫<コミック版>刊)
監督・脚本:平川雄一朗
主題歌:「翼をください」杏(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松竹
撮影期間:2020年3月~2022年5月
C) 柊あおい/集英社C) 2022『耳をすませば』製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/10/15 09:00
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