柴田理恵の“号泣折れ線グラフ”、フジの十八番は歴史と分析?――『私のバカせまい史』
#フジテレビ #バラエティー
なぜ、ものまね番組の「ご本人登場」は衰退したのか?
美川のブレイク以降、「ご本人登場」の演出は露骨に繰り返されるようになった。青江三奈、工藤静香、近藤真彦、ピンク・レディー、錦野旦、日野美歌、和田アキ子、シンディ・ローパー、スキャットマン・ジョン、トランプマンなどなど、錚々たるミュージシャンがものまね芸人の背後から登場しまくったわけだ。
この豪華さこそ、まさしくバブル。当時のテレビ局のお金の使い方が、キャスティングのゴージャスさと完全に直結している。外タレは平気で招聘するし、当時解散していたピンク・レディーにいたっては、6年ぶりの再結成の舞台が『ものまね王座決定戦』だったのだ。
明らかにタガが外れている、『ものまね王座決定戦』の制作スタッフたち。次第に「ご本人登場」の演出は増長、乱発の一途をたどるようになり、いつの間にかこの演出は恒例化していった。なにしろ、本人が登場しないと物足りなく感じたくらいなのだから。もはや、これはものまね番組ではない。ご本人登場番組だ。
95年発行の新聞を読むと、ラテ欄も歯止めが効いていなかった。
「ご本人続出・野際陽子・近藤真彦から㊙海外ゲスト シ?ディ・ロ?パーまで超豪華20組」
「シ?ディ・ロ?パー」という名前の虫食いの仕方がひどい。「清水K」「O貞治」といった伏せ方よりもやっつけだ。当時は、TVerなどの見逃し配信がない時代。しかも、大金を払って超大物を来日させたのだ。是が非でも、視聴者を事前に引き付けておきたいという思惑があったのだろう。
そうこうしている間に、バブルは弾けてしまう。97年には1本の放送に27回も行われた「ご本人登場」が、2022年にはわずか2回に減少していたのだ。
いろいろ、要因はあると思う。まず、マンネリの演出が視聴者に飽きられてしまったこと。あと、大物ミュージシャンを呼べるほど番組の制作予算がなくなったという事情もあったはずだ。端的にギャラの問題である。
さらに、今はボーダーレスの時代だ。「えっ、あの人が出てくれたの!?」と視聴者を驚かせる“格”があるミュージシャンは、もうほとんど見当たらない。「プレミア感」という事情もあったと思うのだ。あらゆる要素、あらゆる角度から、諸行無常を感じてしまう。
「似させる」が令和、「笑わせる」は昭和~平成初期のものまね
そんな中、現代の『バカせまい史』が“ミスターご本人登場”と名付けたのは清水アキラだった。嬉しそうにスクール水着を着た清水が、不可解なほど執拗にものまねに励んだのは、橋幸夫「恋のメキシカン・ロック」であった。
セロテープで目尻を吊り上げ、橋幸夫仕様の流し目にデフォルメせんとする清水の“テープ芸”。『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)の「顔面テープ選手権」にも引き継がれた、昭和発祥の秘技である。
というか、端的に言えば清水は悪ノリが過ぎた。だからこそ、このシチュエーションで橋が登場する瞬間はエクスタシーだったのだ。
しかも、清水はずっと懲りない。何度もこの曲を演るのだ。95年、97年、98年と、清水が「メキシカン・ロック」を歌ったのはなんと計3回にも及んだ。夢に出てくるほど「メキシカン・ロック」をこすりまくるし、そのたびに律儀に登場してくる橋。
この一連の“メキシカン・ロック地獄”で、いつも視聴者は爆笑させられるのだから恐れ入る。筆者も2~3度と見ていくうちに、「いっそのこと、死ぬまでやればいいのに」と思うくらいだった。だから、清水アキラこそが“ミスターご本人登場”だ。
昔のバラエティを見ると、どうしても懐古主義になる。老害を自認する筆者は、「似させる」に注力しがちな昨今のものまね芸より、「笑わせる」を優先させる清水アキラやコロッケのようなものまね芸に惹かれる。
昭和~平成初期のバラエティのゴージャス感、さらにものまねの変遷を再認識している。たまに歴史を振り返ると、感慨と再発見と再認識によくぶち当たる。
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