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『HiGH&LOW THE WORST X』は若手俳優の『有吉の壁』だった──ハイロー放談前編!

ハイローは「推しに出てほしい映画ナンバーワン」

加藤 今作は前作に続いて『クローズ』とのクロスオーバーなわけですが、ひとつ思ったのが、今回の物語って『クローズ』のスネイク・ヘッズ編のリメイクなんですよね。簡単に説明すると、ヤクザの息子・八丁が親の威を借りてつくったチーム「スネイク・ヘッズ」を、副ヘッドだった陣内が右腕である鉄次と一緒に乗っ取って街を支配しようとするんです。そこに春道と愉快な仲間たち(パルコアンドデンジャラーズ)がやってくる。スネイクヘッズのほうが人数は圧倒的に多かったんだけど、鈴蘭の仲間と鳳仙と武装戦線が応援に来て、全員やられて2人だけになってしまう。そこで鉄次が「ここからオレとおまえの成り上がり伝説が始まるんだ」って強がって闘って、結局春道に負ける。つまりシチュエーション的に完全に同じなんです。

藤谷 春道も鬼邪高のみなさんよろしく牛乳飲んでお腹壊していましたしね。いや、冗談はさておき、その指摘は正しいと思います。

加藤 ただ、『クローズ』だと春道たちはある程度の形勢が決まった時点で「オレたちの役目はここまでだ」って帰っちゃうんですよね。その後に一人になった陣内が「オレはガキみてぇにスネてこんなことしてただけなんだ」と自省していたら、後ろから刺されて死んでしまう。それがすごく高橋ヒロシ的な展開なのに対して、楓士雄はちゃんと2人が仲直りするように仕向けて「またやろうな」って帰っていく。アフターケアが完璧です。

藤谷 そこがラブドリームハピネス精神なんですね。

加藤 さすがセカンドキャリアに強いLDH。たぶん天下井は陣内と八丁が合体したキャラなんですよね。でも結末はまったく違う。そこに『クローズ』とハイローの違いがよく出てるなと思いました。

藤谷 それでいうと主人公の楓士雄は、2つの世界観を背負った“完全体”になってましたね。前回の対談では「高橋ヒロシ作品の既存キャラのキメラではあるけど、だからこそ人間味が見えてこない」と話していたんですが、川村壱馬さんがキャラクターを咀嚼しまくって完全に仕上げてきてくれました。本当にありがとうございます。

加藤 川村壱馬さん、『クローズ』っぽさとハイローらしさを完全に理解していて、もはや恐ろしいですよ。

藤谷 もう、冒頭のバトルシーンから自己紹介として完成されている。天下井の腕ポキに象徴される悪辣な暴力から、楓士雄が鈴蘭に単身乗り込んで正々堂々スポーツマンシップにのっとった喧嘩につないでいるじゃないですか。あそこで楓士雄のキャラの良さが120%出てました。快活さ、天真爛漫さ、人間の大きさ、そしてバカさ。余すところなく「THIS IS 楓士雄」でした。あのバトルで初見の人も「この人が主人公である」ことを完全に理解できるはず。そして迎え撃つ鈴蘭側もすごく良い。

加藤 ビンゾー(板垣瑞生)最高でした。彼が飛んでくるシーンで「あ、この映画好きだな」って思いましたよ。

藤谷 八木さん(勇征:山口孫六役)の蹴りも美しかったです。「美しい彼」から「美しい蹴り」へ。それこそ『花より男子』の花沢類役で一世を風靡した小栗旬さんが『クローズZERO』でそれまでの俳優イメージを更新したのと近いものを感じました。八木さんはこれからいろんな役でもっと観たいです。

──個人的に、ラオウ(三上ヘンリー大智)がグッときました。デカいことは才能だな、と。

藤谷 フィジカルの説得力で優勝。格闘家を所属させてたLDHはえらい(※)。三上さんは作画が高橋ヒロシというより米原秀幸なんですよね。『クローズ』より『ウダウダやってるヒマはねェ!』。それも含めて、いい意味で違和感、非現実感があってよかった。

※LDHが運営する格闘技系トレーニングジム「EXFIGHT」所属。

加藤 わかります。「こんな人いたら最強だろうな」って思う。竹内力さんにちょっと顔が似てらっしゃるんで、カオルちゃん(岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説』シリーズ)が若返ったような雰囲気がありますよね。

藤谷 あ~~~、三上さんのカオルちゃん、見たいかもしれません。これは書いておきましょう。

加藤 時任勇気さんのマーシーもめちゃくちゃかっこいい。最後に鈴蘭が助っ人に来るとき、時任さんが学ランじゃなくて、ちょっとオシャレなシルエットの服装で来るじゃないですか。そのせいもあってマーシーが登場したとき「パリコレが始まった」と思いました。

藤谷 マーシーは刃牙の家みたいな落書きアパートに住んでるのも格好いいですね。秋田書店のマンガの登場人物だ。

加藤 役者として、風神と雷神も最高でした。三校連合が横一列でガーッと歩いてくるシーンで、みんな歩き方がどうしてもきれいなんですよ。その中で風神雷神だけめちゃめちゃ肩を怒らせて歩いてて、ヤカラ感がすごくあった。特にさんが演じている風神は「轟は俺にくれよな」みたいなことを喫茶店で言うシーンで、ずっと貧乏ゆすりをしてるんですよね。あれもよかった。何も知らない人が見たら「上手な若手の役者さん連れてきたな」って思うのでは。僕は最初、THE RAMPAGEのメンバーだと気づかなかったです。キャラクターの特徴をつかむのがうまそうだから、ヤンキーモノに限らず今後いろんな映画で観たい。あとは鎌坂高校の氷室(藤原樹)も。

藤谷 藤原さんは、ドラマ『明日、私は誰かのカノジョ』(MBS)のホストのはるぴしかり、いま性格に問題のある美形をやらせたら右に出るものはいないのでは? 

加藤 最高ですね。あんなに楽しそうにメリケンサックを振るう人間はいないですよ。

藤谷 あんなピカピカの笑顔で金ピカのメリケンサックを。それこそ『くにおくん』世界の住人ですよ。

加藤 しかもしっかりタイマン張って負けてるのも込みで良い。負けて退場するのかと思いきや、最後の決戦では他校の2階に陣取ってビール瓶投げてて、終始一貫して最悪な感じがよかったです。バラ商の鮫岡(長谷川慎)も、ほとんどセリフがないのにしっかり強者の風格がありました。喫茶店で話を聞いてるときも、瀬ノ門の2人に全然心を開いていない感じが伝わってくる。

藤谷 そういう含みがあっていいですよね。本当に、アクションだったりひとつの所作だったりで、それぞれのキャラクターの背景に「何かあるんだろうな」とうかがえるものがある。いまや高橋ヒロシ作品世界は無限にスピンオフ作品が生まれていますし、「ザワ」でも『HiGH&LOW THE WORST 鳳仙学園日誌』(秋田書店)があるけれど、鎌坂とかバラ商もみんなスピンオフつくれそうなくらい良いキャラばっかりでしたね。

加藤 そしてその中にあって、大きな位置を占めたのが瀬ノ門ですよね。

藤谷 グローバルに活躍するK-POPグループ・NCTのYUTAさんという本当の“他校の大物”が来たわけですよ。NCTオタクの友達が映画観に行って「観ましたよ、中本悠太主演のザワクロ!」ってLINEが来たんです。この感想が私、本当にうれしくて。ハイローは「推しに出てほしい映画ナンバーワン」の座をまたひとつ揺るがないものにしたと思います。

──ハイローの全員主役スピリット! とはいえ今回は本当にYUTAさんが主演かというくらいの出方でしたが。

加藤 こういうおいしい位置に外部の俳優を呼んできて、しかもかっこよく撮ってくれる。だってこの映画、始まりが中本くんじゃないですか。劇場で僕の隣に大学生くらいの女性が4人座ってたんですけど、あそこで全員「ふぉぉ!」って息を呑んでました。

藤谷 「顔、良(よ)!」ってなりますね。

加藤 中本くんは最初、感情を表に出さない演技をしていたからこれはシュワちゃん理論なのかな? と思ったんですけど、途中から普通に演技をしていて、それがちゃんとうまいんですよね。すごい子を引っ張ってきたなと思いました。アクションの説得力もあった。楓士雄との戦いで、すごく好きなところがあって。楓士雄は縦横無尽に立体的に動くタイプだというのを、それまでのアクションで散々見せてきてるんですよね。須嵜はそれを防ぐために、体育館の隅に追い詰めて横移動ができなくした状態で蹴りまくる。そういうことを考えて戦えるタイプのキャラだというのをしっかり見せていた。三校連合の人たちが基本的にすぐ殴っていくスタイルの中で、一歩引いてる強キャラ感がすごくよかったです。

藤谷 そのNCTのオタクがいうには「須嵜と天下井の関係性は、NCTでのYUTAと○○の関係性とソックリなんですよ。主語を天下井から○○くんに変えるとNCT初期ヒストリーになります」とのことでした。つまり現実と合わせ鏡になってるところがあるんでしょうね。もちろんそのまま天下井みたいな人ではないでしょうけども。

加藤 あんなのがいたら大変ですよ!

藤谷 BE:FIRSTのRYOKIさんも、本当によくこんな役を……(目頭を押さえる)。

加藤 まずこの役を受けるのがえらいし、演じきってました。どこまで狙ってやったのかわからないけど、ちょっとぎこちなくて無理してる感じがあるんですよ。ハイロー特有の、体言止めを多用したセリフを無理して言っているのが「自分を強く見せなきゃ」って強迫観念に駆られてる天下井というキャラにぴったり合ってました。しかもアクション的な見せ場が一切ないのもすごい。このジャンル、この映画に出てアクションしないってめちゃくちゃな損ですよね。

藤谷 天下井、マジで無抵抗の人間に腕ポキとか棒で殴るさまの記憶しかない。

加藤 一晩吊るした司に指を折られる体たらくで。

──そんな干物みたいな言い方。

加藤 一晩吊るした司としか言いようがないじゃないですか。鉄パイプでボコボコにした後、縛ってさらに吊るしてるんですよ。そこまで追い詰めた相手に指を折られてるんだから、格好良いかっていったらかっこよくない。

藤谷 そう、格好悪いところをきっちり引き受けるのもすごい。きっとBE:FIRSTのオタクの皆さまも「RYOKI主演の『ザワクロ』最高!」って言ってるのでは。

加藤 本当に全員よかったので個別に話していくときりがないですね。それで、最後にこれをどうしても言いたいんですけど……若手俳優がものすごくたくさん出てて、出番が数十秒でもその中で爪痕を残せば勝ちというこの感じ、ほぼ『有吉の壁』じゃないですか?

藤谷 日テレだ!

加藤 HIROさんが「おもしろ不良高校生の壁、スタート!」って言って銅鑼がジャ~ンと。

──平沼さんが佐藤栞里ちゃんですね。

加藤 2人で歩いていって「あ、誰かいますね」「おっ、メリケンサック! ヤバいねぇ」「合格でーす」って。いい意味でそういう場になってきてると思うんですよ。

後編は明日に続く!

<プロフィール>
加藤よしき
ライター。1986年生まれ。本業はゲームのシナリオライター。映画ライターとしては「Real sound」などで執筆。最新著書は『読むと元気が出るスターの名言 ハリウッドスーパースター列伝』(星海社新書)。
ブログ:http://blog.livedoor.jp/heretostay/
TwitterID:@daitotetsugen

藤谷千明
ヴィジュアル系とヤンキーマンガとギャル雑誌が好きなフリーライター。1981年生まれ。執筆媒体「サイゾー」「Real sound」「ウレぴあ」ほか。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』幻冬舎) 、『すべての道はV系へ通ず。』(共著/シンコーミュージック)などがある。
Twitter:@fjtn_c

<サイゾーのハイロー特集! 大大大開催中!>

斎藤岬(ライター)

1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。

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さいとうみさき

最終更新:2022/10/18 01:43
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