『キングオブコント』語らない浜田雅功のノイズのなさと安定感
#お笑い #キングオブコント #浜田雅功 #テレビ日記
浜田雅功「結果はっぴょーーー!」
10日の『お笑いの日』では、2022年の『キングオブコント』も放送された。ネタがはじまる前、松本人志(ダウンタウン)はちょっとした懸念を示していた。
「去年の盛り上がりが素晴らしかったものですから、なかなかそれを超えることが難しいかもわからないですが、ホントに盛り上がる大会になってほしいなと思います」
しかし、蓋を開けてみると、チャンピオンの2つのネタの合計点が歴代最高点を叩き出すなど今回も大いに盛り上がった大会だった。その盛り上がりをつくったのは、何よりもファイナリスト10組のネタである。加えて、去年から一新された審査員のコメントもうなずくものが多かった。
が、ここでは別のところに注目したい。浜田雅功。ダウンタウンのツッコミ役であり、数々の番組でメインMCを務めてきた男の司会について、である。
まず、浜田は繰り返す。正確にいえば、繰り返すべきところは繰り返す。意味のないところで特別な言動はしない。
たとえば、ネタが終わると「さぁ! 審査員のみなさん、採点のほうお願いします!」と呼びかけ、点数が出たら「ビスケットブラザーズの得点は!」などと声をあげる。そして「山内92(点)」などと読み上げ、「合計得点は!」と結果発表する。
結果が出ると「さぁ、松本さん」と審査員にコメントを求め、ひととおり終わると「続いては3組目のファイナリストです」と次を呼び込む。
この流れはいつも同じ。声の大きさ、音程、速度、ほぼすべて同じ調子で繰り返す。もちろん、次のひと言も例年通りだ。
「結果はっぴょーーー!」
また、審査員のコメントに対して浜田は相槌を打つが、そのバリエーションは実は多くない。基本的には「うん」と「なるほど」の2通りである。この場の主役はあくまでもネタを披露した若手と審査員である。そこに邪魔になるような特別なことを浜田はしない。
特別なことをせず同じ調子の進行が番組のベースをつくっていく。審査員の講評の合間にいい塩梅に「うん」「なるほど」と打ち込まれる相槌が読点のようにリズムを生む。そして、誰かが面白いことを言えば「(笑)」と句点を打つ。この間違えることのない選択に先導されながら、場の状況が間違えることなく前に進んでいく。
一方で、今回、浜田が審査員に「俺言うぞ! という人」「俺に言わせろ! という人」などと審査員に挙手させようとする流れが何度かあった。周囲がツッコんで笑いになったシーンだ。“横暴”なMCという浜田のパブリックイメージに近い言動かもしれない。場の流れを暴力的に断ち切る、ある種の特別な言動とも言える。
が、意味のないところで浜田は“横暴”を出さない。たとえば、いぬに対する講評のシーン。キスが繰り返されたこのコントに飯塚悟志(東京03)が「やっぱキスは禁じ手だと思うんですよねぇ」と点数を低めにつけた理由を語ると、「俺もおんなじだぞ! という人」と笑いどころをつくる。ニッポンの社長のコント中の“暗転”についてネガティブな評価が審査員から出てくると、「そうじゃないぞ! という人。俺はそうは思わないぞ! という人」と言って、やはり笑いを生んだ。
こうして浜田は空気が滞る瞬間をつくらない。そういう瞬間ができてしまっても、すぐに笑いどころをつくり次の展開へと切り替える。彼の“横暴”のイメージは、何よりこの暴力的な断ち切りで機能する。今回、コント中の“暗転”が話題になったが、そういう意味でいえば、浜田は空気的な“暗転”をつくらない。
空気の管理は、時間の管理でもある。松本がエンディングで大会全体の講評をすると、まだしゃべっている途中でも「なるほど」と強引に読点を打ち、「というわけで、優勝はビスケットブラザーズー!」と句点を置く。次の瞬間、番組はスパッと終わりCMに移るのだ。1時間番組の収録を1時間で終わろうとする、とは周囲が浜田をイジる際の定番だが、それが確かにできるのだろうと思わせるほど時間管理が正確である。
そして何より、浜田はMCとしてネタの評価をしない。「(客席が)めちゃくちゃウケてた」「(アナウンサーが)声を出して笑ってた」みたいなことは言うが、「面白かった」みたいなことはまず言わない。そもそもネタの場面で彼は一切映らない。このあたり、どっちがいい悪いではないが、M-1の今田耕司の司会とはタイプがちがう。“横暴”なMCというパブリックイメージとは逆に、彼は若手や審査員の後ろに引っ込む。
周囲が浜田をイジる際、ドラマは見るがお笑いの賞レースに興味がない、というのも定番のポイントだ。彼はもともとお笑いを語らない。誰も彼にジャッジを求めない。そんな普段からのスタンスも、ネタや審査のノイズにならない浜田的な賞レースMCの安定感につながっているのだろう。彼はノイズになる言動をせず、そもそも存在がノイズを発しない。
出る側も見る側も、笑いを大いに語る。そんな時代にあって、誰よりもテレビの笑いの中心にいる男は、何も語らない。そんな男だからこそできる、MCがある。
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