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川本真琴「サブスクを考えた人は地獄に堕ちて」発言が波紋…それでも賛同の声も多いワケ

川本真琴「サブスクを考えた人は地獄に堕ちて」発言が波紋…それでも賛同の声も多いワケの画像
写真/Getty Imagesより

 岡村靖幸プロデュースのデビュー曲「愛の才能」や、フジテレビ系で放送された大人気アニメ『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』のオープニング曲に起用された「1/2」など、90年代後半にヒットを飛ばしたことで知られるシンガーソングライターの川本真琴。

 彼女が、サブスクリプション型音楽配信サービス、いわゆる「サブスク」がアーティストにもたらす収益がいかに少ないかを訴え、話題を呼んでいる。

 川本は9月19日の深夜、同じくシンガーソングライターの七尾旅人の「もし生き残らせたい『推しミュージシャン』が居たら、コスト回収率の高いCDを一応買ってあげて」などとするツイートをリツイートした上で、「サブスクでの利益がどれだけ少ないかを知ってほしい」とツイート。その後、削除してしまったが、「サブスクというシステムを考えた人は地獄に堕ちてほしいと思っている」「じゃあ、サブスクやめればというかもだけど、CDデッキを持ってない人も多くなって、どないしろという現実」などと続けた。

 ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観は24日、TBSラジオの『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』にゲスト出演した際、この一件について意見を求められ、2012年にメジャーデビューした際に「CDが売れない世代でかわいそうだね」と言われたことを明かしつつ、「確かに全盛期に比べたら、だいぶ売り上げも落ちていたし。でも今よりは売れていたし、だから何とも言えない世代なんですよ」「だからこそ、すぐにサブスクに移行できたんですよ。川本さんぐらいCDが売れてる時代だったら、もしかしたら(サブスクへの移行に)抵抗があったかもしれない」とコメントした。

 さらに尾崎は、「CDを出してた時よりも幅広く聴かれているって印象がある。過去の曲が急に広まっていったりもする」とサブスクのメリットを語り、自身はサブスクは「宣伝」とある程度割り切りつつ、ライブ活動で稼いでいくスタンスだとして、「(サブスクは)悪いことではないのかな」とまとめた。

 これに川本も反応。「尾崎世界観さんは、サブスクは宣伝でしかないと言っているけど、サブスクだとしても、私は音楽を宣伝という扱いに思ったことはないです」と反論した上で、「今、音楽活動をしようとしてる方が個人的に音源を出す場合、サブスクだけの売上では活動を続けていくのが難しい状況であることを伝えたかった」「これは、私だけの話でなく、 レーベル側の経営にも関わってきます。サブスクで楽しんでもらいたいとおもっていますが、そういう現実があることも知ってほしかった」「この話は、音楽でやっていきたい友人が、サブスクの売り上げが一回0.01円以下で40回しか売れてなく、これを仕事にしていくことはできない、というのを聞いてツイートしました(原文ママ)」と、音楽業界の構造的な問題であることを強調した。

 川本は「サブスクを否定してるわけではないので、いろんな音楽を聴いて楽しんでください」「もう一度いいますが、サブスクの否定はしていません! わたしも利用してます」と伝えながらも、「わたしもどうしてよいのかわからなく考えているところです」と、この問題をどう解決すべきか自身もはっきりとした答えが出ていないようだ。

 定額を支払うことで配信されている楽曲が聴き放題となるサブスクリプション型音楽配信サービスは、ユーザーにとっては魅力的なサービスだが、アーティストや中小レコード会社にとっては利益を生むのが難しいシステムであることはよく指摘されている。

 レコード会社の役員は語る。

「強い表現が目立ったために物議を醸しましたが、正直、音楽業界では川本さんに『よくぞ言ってくれた!』という声も多いです。というのも、サブスクに関しては、サービスの種類や契約形態などによって異なるため一概には言えない部分はあるものの、平均的には大体1再生数あたり0.3~1.3円という報酬形態。しかも、ここからレーベルなどの取り分を除き、直接アーティストに入る金額となると、川本さんの発言のとおり0.01円以下になることも。それだと仮に10万回再生されてもわずか1000円という計算になります」

 これがCDだとアーティスト印税は1~3%。作詞や作曲も手がけていればそこに著作権印税の取り分が加わり、さらにカラオケ印税などもある。SpotifyやApple Musicの標準的な月額プランに近い1000円のCDが1万枚売れたとすると、アーティスト印税だけで60万円ほど(2%換算)となるわけで、その差は歴然だ。

 さらにサブスクならではの構造的な問題もある。

「基本的に膨大な数のアーティストと横並びになるため、有名なアーティストほど多く聴かれて儲かり、無名のアーティストは埋もれてしまって、そもそも再生回数を伸ばすのは難しいという傾向があります。運営側は公式プレイリストなどで注目のアーティストや楽曲をピックアップすることでこうした“格差”を是正しようとはしていますが、TikTokなどのプロモーションにアーティスト側が力を注がない限り、公式プレイリストに入っただけで爆発的なヒットになることは少ないですね。

 加えて言えば、著作権料は全体の収益を分配して支払うという考え方にも賛否あります。たとえば、応援したいアーティストの曲ばかりを聴いたところで、そのアーティストの収益には直接つながらない。全体の収益から、再生回数に応じて分配されるからです。だからこそ、気に入った曲や作品は購入してほしいとアーティスト側は願うわけです。購入してもらえれば直接そのアーティストの収益になりますからね」(音楽ライター)

 こうした事態になっている背景には海外や異業種の参入も大きいという。

「サブスクは基本的にSpotifyとApple Musicの2強で、日本ではAmazon Musicなども加入者は多いですが、いずれも海外の会社。国産サービスでは、ソニー、エイベックス、そして日本のLINE株式会社で立ち上げたLINE MUSICや、エイベックスとサイバーエージェントの共同出資によるAWAなんかも健闘していますが、音楽配信のプラットフォームは世界的にも海外勢に独占されてしまっており、向こうが一方的に決めた収益配分比率に乗っかるしかない。このあたりは海外でも大きな問題になっていて、アメリカでは団体で交渉し、Spotifyらから音楽出版側に支払われる著作権料を上昇させることに成功していましたが、業界全体としてはまだまだ問題は山積という認識でしょう」(同)

 前出のレコード会社の役員はさらにこう続ける。

「CDが低迷して以降も、日本では大手レコード会社が関わる『着うた』が流行したおかげで、2000年代はまだアーティスト側の収入も多かった。『着うたフル』なんかは1曲あたり200円から400円程度と、CDほどではないにしてもそれなりの対価を維持できていたし、レコード会社もそれなりに収益をあげていたので、アーティストへの報酬も今のような“価格破壊”は起きていなかったんです」

 もっとも、これまでが異常だったという指摘も。

「国内需要だけで多くのアーティストが潤っていた時代が長く続いた日本は、世界的にも歴史的にも珍しい。2021年のセールスを見ても、いまだにアメリカと匹敵するレベルにあり、人口差を考えればまだまだCDが売れている国です。とはいえ日本も、配信はサブスクが拡大傾向にあるものの、一方で2021年内に100万枚売れたアルバムが生まれなかったなど、国内セールスはどんどん下がっており、日本経済の地盤沈下が続く中、“アーティストはどうやって生活していくべきか”というところの発想の転換を迫られている面もあります」(前出・音楽ライター)

 今年6月には山下達郎が、自身の音源をサブスクに解禁しない理由について、「表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取ってる」とプラットフォーマーの問題に触れ、「それはマーケットとしての勝利で、音楽的な勝利と関係ない」からだと語ったことが話題になった。ユーザーだけでなく、アーティスト側も歓迎できる「システム」の構築が求められるところだが……。

与良天悟(芸能ライター)

1984年、千葉県出身のウェブメディア編集者。某カルチャー系メディアで音楽や演劇を中心にインタビューなどを担当するほか、フリーで地元千葉県の企業の記事なども請け負っている。

よらてんご

最終更新:2022/10/06 06:00
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