トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 『ハケンアニメ!』は歴史的傑作

『ハケンアニメ!』さらに「胸に刺さる」人が増えてほしい、歴史的傑作映画になった理由

『ハケンアニメ!』さらに「胸に刺さる」人が増えてほしい、歴史的傑作映画になった理由の画像1
(C) 2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 辻村深月の小説を原作とした映画『ハケンアニメ!』のBlu-ray&DVDが発売中、そして各種配信サービスでレンタル配信中だ。

 本作は劇場公開当初、ライバル作品が多いこともあって興行的に苦戦したものの、絶賛に次ぐ絶賛の口コミが相次ぎ、公開から1カ月以上経ってからは首都圏の劇場では満席が続出、上映期間の延長や拡大公開もされるという、異例のロングランを記録した。

 出演者の前野朋哉がティーチイン付き特別上映会で「観てくれたみなさんが、宣伝マンになってくれる作品」と言うほどに、この『ハケンアニメ!』には観た人を熱狂させ、そして誰かにおすすめしたくなる力がある。筆者個人としても2022年のベスト級の映画であり、そして万人が面白いと思えるエンターテインメントでもあるので、劇場で観逃したという方もこの機会に優先して観ていただきたい。具体的な作品の魅力を記していこう。

本当に作られた「鬼クオリティ」のアニメでの対決

 本作の面白さは、まず漫画の『バクマン。』のような「作品で対決する」構図にある。見た目がハンサムで待望の復帰作を手がける伝説的監督と、彼に憧れてアニメ業界に入った新人女性監督という対照的な2人が、手がけたアニメでどちらがNo.1になるかの覇権(ハケン)を巡ってバトルをするのだ。

 そして、劇中のアニメがそれぞれ「鬼クオリティ」と言ってもいいほどの仕上がりだ。原作者の辻村深月が、劇中では使用されない部分も含めて2作それぞれ全12話分のプロットを作っており、本当に超実力派のスタッフと超人気声優が集結し、尋常ではない労力をかけて、劇場で公開されるレベルの「覇権を争う作品」としての説得力を持たせているのだ。

 本作は企画立ち上げから実に7年の時を経て完成しており、その劇中のアニメにこそ、特に時間がかかっていたことは間違いない。この『ハケンアニメ!』を観れば、アニメが好きな人も、そうでない人も、「アニメって本当にすごい!」と、そのわかりやすい対決の構造と、圧倒的なアニメのクオリティのために、ストレートに思えるのだ。

「誰かの胸に刺さる」ことの尊さと、その難しさ

『ハケンアニメ!』さらに「胸に刺さる」人が増えてほしい、歴史的傑作映画になった理由の画像2
(C) 2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

 本作のキャッチコピーには、「刺され、誰かの胸に——。」とある。劇中で対決する、2人のアニメ映画監督は覇権を奪うだけでなく、そのためにアニメを作っている。アニメが誰かの胸に刺されば、その人にとっての生きる希望になるかもしれないし、人生を変えるきっかけにもなるかもしれない。それほどの「力」がアニメにはあるのだと、それぞれの監督の言動や過去の出来事はもちろん、前述したアニメのクオリティでもって提示しているのだ。

 同時に、アニメは膨大かつ地道な作業の積み重ねであることも、ややダウナーなトーンで映される制作現場から、改めて思い知らされる。しかも、劇中で新人女性監督はスタッフとのコミュニケーションに苦労するだけでなく、宣伝活動に自分を駆り出してくるプロデューサーにも不満を募らせていく。純粋にアニメを作ること以外の「大人の事情」や、新人でしかも女性だからこそ偏見の目で見られる問題も、丹念に描かれているのだ。

 一方で、ひょうひょうとした印象があるプロデューサーもまた、独自の信念を持つ者であることがわかっていく。特に、彼の「アニメを視聴者に届けるということは、簡単なことではありません。“100”の方法で届けて、“1”届けばいい方です」という言葉に、ハッとする人は多いはず。世の中にたくさんのエンターテインメントが溢れている今、その難しさは、作り手でなく受け手も少なからず感じていることだろう。

 そのプロデューサーの言葉は、まさに本作『ハケンアニメ!』が劇場公開当初に興行的に苦戦してしまった事実を、メタフィクション的に思い知らされる。だが、その後にSNSを中心に絶賛の声がまさに「届けられ」、届けられた人たちが熱狂的な絶賛の声をSNSに投稿し、ロングランを達成したということもまた事実。100以上の、さらにもっと多くの方法で届ければ、きっと「胸に刺さる」人もさらに多くなるというのも、また普遍的な事実であり希望なのだと、『ハケンアニメ!』という作品の内外で思い知らされたことにも、感動があったのだ。

123
ページ上部へ戻る

配給映画