藤波辰爾が37年ぶりに迷曲「マッチョ・ドラゴン」熱唱、笑いながら感動させられた“受けの美学”
#音楽 #プロレス #NHK
伽織夫人も「いたたまれない」と酷評した藤波の歌声
実は、「マッチョ・ドラゴン」には原曲がある。イギリスで活動するエディ・グラントの「Boys in the Street」に日本語の歌詞をつけ、大胆なアレンジを施したナンバーだったのだ。編曲は若草恵で、作詞は森雪之丞という素晴らしく豪華な布陣。日本屈指のヒットメーカー2人だ。
「かなりすごい人(ミュージシャン)を使いました。自分の中では100%でできたと」(若草)
「やっぱり、(藤波は)正義のプロレスラーだと思うので、そういうヒーローを描きたかった。絶対、日本のほうが演奏とか総合的にカッコいいと思います」(森)
改めて「マッチョ・ドラゴン」を聴くと、アレンジはまさしく一線級の80年代ポップスだ。実は、山下達郎も自身のラジオ番組『山下達郎のサンデー・ソングブック』(TOKYO FM)でこの曲を取り上げたことがあり、「エディ・グラントのバージョンより藤波さんの(バージョンの)ほうが演奏が全然いい」と称賛している。俳優の根津甚八も「Boys in the Street」をカバーしているが、アレンジだけに注目すれば完全に「マッチョ・ドラゴン」のほうに軍配が上がる。
このクオリティだけで、関係者の熱の入れようはビンビン伝わってくるというもの。新日にとっては危機脱出のための起死回生砲だっただけに、制作には相当な予算が充てられたのだろう。
そして迎えたレコーディングの日。ついにドラゴンの口が開き、歌声は轟いた。
「いなぁ~づぅまがやみをさ~いて~ お~でをよんでどぅ~ あ~くとちらすひ~ばな~ じがくいじゃあんぐぅるおー まぁかにそめーてやるー マーッチョドラゴンッ」
(稲妻が闇を裂いて 俺を呼んでる 悪と散らす火花 四角いジャングルを 真紅に染めてやる マッチョドラゴン)
いざ、藤波の歌声を聴いた関係者たちの証言は以下。
「マッチョ・ドラゴンじゃなくてマッチョ・エンジェルだったなというふうに思いました。天使の歌声ですよ、やっぱりあれは」(森)
「見てるこっちのほうが恥ずかしくなってきちゃう。本当にいたたまれなくって」(伽織夫人)
あまりにも辛辣な伽織夫人。もう、ボロクソだ。奥さんから「いたたまれない」とまで言われてしまうなんて……。あと、作詞家の森が藤波の歌唱を「天使の歌声」と評していたのはさすがだった。というか、小学生みたいな歌声のわりに、「息の根止めてやる」「ナイフの切れ味」と歌詞が血生臭すぎるのだ。しかし、それで唯一無二の存在感を生み出したのだから、やはり転んでもただじゃ起きない藤波。さすが、ドラゴンだ。
当時、まだ若手だった蝶野の「マッチョ・ドラゴン」に対する印象は以下である。
「毎朝、あれが(合宿所の)起床の音楽で流される。7時前後とか。近所に聴こえるくらい(の音量)。あと、たぶん練習中もかかってたんじゃないかと思うんで、ずっと流れてた記憶があります。もう、とにかく耳から離れない」(蝶野)
目覚めとしては最悪だ。朝7時から「マッチョ・ドラゴン」が流れる、地獄のような合宿所。もし本当に近所に聴こえていたならば、公害スレスレである。
蝶野のコメントで特に気になったのは、「練習中もかかってた」という一言。これについてより詳しく説明がされたのは、蝶野と同期のプロレスラー・船木誠勝が自身のYouTubeチャンネルで語った藤波の思い出である。若手時代、船木は藤波の付き人だった。
「怒った藤波さんを見たことは、実は1回しかありません。『マッチョ・ドラゴン』という、藤波さんの出した歌があります。『マッチョ・ドラゴン』で入場していた時期もありました。そのとき、自分は付き人なのでカセットテープを買って部屋で聴いてたんですけども、そしたらそこに“破壊王”橋本真也が入ってきました。『おい。面白い曲だなあ、藤波さん』。で、(橋本が)歌のマネをします」
「道場にもカセットデッキがありましたので、夜の人数が少ないときは好きな音楽をかけてウエイトトレーニングとかをしていたんですが、橋本選手が物凄く『マッチョ・ドラゴン』を気に入ってしまったようで、ずっとかけてるんですね。ずっと」
「それを聞きつけたドン荒川さんが、なんと普通の合同練習の最中に『マッチョ・ドラゴン』を流してしまったんです。そしたら、藤波さんが無表情でバチッと消してカチャッと出して、カセットテープを何かで踏みつけて粉々にして、ゴミ箱にポイッですね。後にも先にも、怒りの藤波さんを見たのはそのときだけです」(船木)
相変わらず、ノリがひどい荒川と橋本。「マッチョ・ドラゴン」も嫌な愛され方をしたものである。ちなみに、2005年にケンドー・カシンがリーグ戦「G1クライマックス」に出場した際は、自身の入場曲に「マッチョ・ドラゴン」をミックスさせ、それを知った藤波がバックステージで激怒したというエピソードも漏れ伝わってきている。
当の藤波は、自身の歌唱についてこう言っている。
「もし、これが周りがみんな絶賛だったら、もっと表に出てきてもよさそうなものがねえ。ということは、あまり良くなかったのかな(笑)」(藤波)
“天使の笑顔”で“天使の歌声”を自己分析した藤波。船木の証言から「マッチョ・ドラゴン」でスイッチが入る“怒りの藤波”のエピソードを聞いていただけに、よく藤波は出演をOKしてくれたものだとマニアは驚いている。
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