『HiGH&LOW THE WORST X』監督・平沼紀久vsプロレスラー「負けたほうがオイシイんです」
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NCT YUTAから滲み出る芝居を超えた“本物”
ササ なかには芝居経験ゼロの方もいるわけですよね。
平沼 今回でいうと、NCTのYUTAくんは初演技でした。だからどうやって演出しようか、あんまりセリフで語らせないで表情だけでいくのもありかなとか、脚本の段階からいろいろ考えましたね。本人のMVもたくさん観て。
ササ MVを観て演出プランを練ることもあるんですね。
平沼 ありますね。そこから「こういう表情が得意なんだな」とか「この雰囲気だとこんな表情になるのか、じゃあ一言言った後こういう流れにしたらどうなるかな」とか考えて。
ササ K-POPはそんなに詳しくないんですけど、韓国の男性グループアイドルは人数が多いこともあって、MVの1カットにかける表情のキメ方がえげつないですよね。最近「表情管理」って言葉を学びました(笑)。
平沼 そうなんです。それにYUTAくんは、16歳で韓国に単身渡って努力してあのポジションをつかみとってるんですよね。本人は言わないけれど、そこに至るまでにはもちろんつらいこともあったと思う。そういう感情や経験は本人の体にしみついているものなので、そこが演技にプラスになるような役の設定を少し足してみようかと考えたりしました。本人から出てくるものがあると“本物”になるんですよね。
──ササダンゴさんが「俳優がそれぞれ事務所を背負ってくる」という意識で観たのは、プロレスの団体交流戦みたいなイメージでとらえたんですか?
ササ そうです。そんなことってなかなかないじゃないですか。しかもそこで勝ち負けをつけるわけでしょう。大変な交渉があったんだろうな……と想像してしまいました。オファーの段階で、「最後は殴られて負けてしまうんですけれども」みたいなところまで説明していかないといけないわけですよね。
平沼 でも、勝った人よりも負けた人のほうがおいしくなる設定を必ず書いてるんですよ。やっぱり、観てる方も負けた人にフォーカスが行くじゃないですか。熱闘甲子園です。
──それもすごくプロレスっぽいですね。
ササ そうそう。「THE WORST」シリーズはそこも面白くて。「THE MOVIE」シリーズだと、琥珀さんという絶対王者がいるじゃないですか。演じているAKIRAさんは今のEXILEの男臭さの象徴というか現場監督、つまり長州力ですよ。さらにその下の新世代としてコブラ選手が……「コブラ選手」と勝手に言ってますけど(笑)、コブラ選手は直接琥珀さんの薫陶を受けていて、こちらも最終的には負けちゃいけない立場だと思うんです。一方、前作の『HiGH&LOW THE WORST』では、ラストで楓士雄が佐智雄に負けている。負けられる人が主人公になったことで、相関図でいうところの矢印がみんなから強く向いていることをより強く感じました。
──たしかに、『X』は全部の矢印が濃く太くなっていると思いました。楓士雄と司、楓士雄と轟、司と轟、轟と小田島などなど、1対1の関係性の描き方も深くなっていますよね。
平沼 そうですね。今回、轟のポジションですごい悩んだんです。誰とも群れずに過ごしてきた男が、仲間を得たときにどうなっていくのか。前作で村山から「お前が持ってないものをあいつは持ってる」と言われた通り、自分にまったくないものを持ってる楓士雄がいて、それを得るために今までやってこなかったことをして成長しようとする轟を描きたいなと。そうなると、楓士雄のすぐそばにいる司とのバランスをどうとるのかが問われるんですよね。
──なるほど、「どっちがナンバー2?」みたいな話になってきてしまいかねない。
平沼 楓士雄と轟のどっちがテッペンなのか決める戦いを描くべきかなとも思ったんですけど、そんなことで上下を決めるんじゃなくて、もっと違う、2人の中でしかないような立ち位置みたいなものをつくりたくて。
ササ 結果、そこの直接対決はなかったですもんね。
平沼 『X』のテーマのひとつとして、それぞれ看板背負って戦ってるけど誰一人として肩書では戦ってないことを描きたかったんです。ナンバー2だとか頭だとか、本当はそういうことじゃないんですよね。楓士雄は「頭」と言われるけど、だからって自分がいちばん偉いなんて思ってなくて、本当はみんな一緒だと思ってる。そこが最終的に三校連合との比較になっていくんです。“本物”の連合と“偽り”の連合があって、本物の連合のほうに鳳仙と鈴蘭がいる。そういう図式をつくりたくて、そのために関係性を濃くしていったところはあります。
──だから学校の壁を越えて小田島と轟がつるんでいることも描かれたり。
平沼 そうです、そうです。
ササ あそこが釣り仲間っていうのはズルいですよねぇ。小田島は、柔道場でのスパーリングもいろいろインパクトがありましたよ。あのシーンには一体どんな意図が……?
平沼 あのシーンの目的としては、彼らはちゃんと稽古しているから強いんだってところを描きたかったんですよ。体がデカいからとか身体能力が高いからとかじゃなくて、日々鍛錬してるんだ、と。だからクライマックスのバトルで、小田島が柔道技を使ってるシーンもあるんですよ。
ササ 実戦を想定してるから、道着とかラッシュガードじゃなくて、裸と制服なんですね! ああいうのはまさに平沼監督がLDH所属の俳優さんだから書ける台本、撮れる場面なんだろうなって思ったんですよ。
平沼 そんなことないですよ! あれは、本人発信ですよ(笑)。鍛えたら見せたいのは当たり前じゃないですか!
ササ いや、先輩の立場じゃなかったら「これやって」って言えないですよ!
平沼 そうなのかな……でも、もしかしたらそういう面はあるかもしれないですね。鍛えて来るでしょ的な。
──ササダンゴさんが「まっする」でやってることと一緒だと?
ササ そう、「わかるな」って(笑)。それと、『X』でひとつ気になったのが、今作は女性キャラが一切出てこないですよね。今って、フィクションの中でもジェンダーバランスを意識するようになってきているじゃないですか。ここは結構思い切ったところなんでしょうか。
平沼 そこまで思い切ったつもりはなくて、拳だけの話にもっと集中するにはそのほうがいいだろうという考えでした。SWORD世代を一切出さないことにしたのも同じ理由です。
ササ たしかに『X』ではまったく登場しないですね。
平沼 高校生の話に完全に振り切るには、上の世代の存在を少しでも匂わせないほうがいいな、と。一瞬でも出てきたら、どうしてもそっちも観たくなるじゃないですか。SWORDに関して、HIROさんとこの先にやろうとしていることもあるんです。だからまずは『X』を観ていただいて「THE WORST」の世界を満喫してもらった後に、次に打つ手を見てほしくて。SWORD世代から「THE WORST」へ世代交代したのかと言われることがあるんですが、僕らとしては世代交代のつもりはないんですよ。あくまですべては地続きだから。その先を見せるためにはどんな形がいちばんいいのか、ずっと話し合っています。
ササ この先もめちゃくちゃ楽しみになる話ですねぇ……!
(インタビュー・構成=斎藤岬/写真=石田寛)
後編はコチラ
<作品紹介>
映画『HiGH&LOW THE WORST X』
2022年9月9日公開/総監督:二宮“NINO”大輔/監督:平沼紀久/出演: 川村壱馬、吉野北人 ほか
2019年10月に公開された鬼邪高校全日制をメインに据えたスピンオフ作品『HiGH&LOW THE WORST』の続編。「HiGH&LOW」シリーズ映画としては第7弾にあたる。鬼邪高校の頭に立った花岡楓士雄の前に立ちはだかるのは、瀬ノ門工業高校・鎌坂高校・江罵羅商業高校による「三校連合」だった……。NCT 127やBE:FIRSTといった人気アーティストのメンバーが揃ったことで、「ハイロー」の新たな可能性を提示する一作となった。
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