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実写映画版『リトル・マーメイド』の配役の論点は差別だけでなく「原作実写化」にもある

アリエルが黒人でもいい根拠もある

 また、他のディズニーのアニメ映画の『ポカホンタス』(1994)や『ムーラン』(1998)は舞台はもちろん主人公の人種がはっきりしているので、実写化でそれ以外の人種のキャスティングをすることは筋違いになるだろう。一方、『リトル・マーメイド』では「カリプソ」というカリブ海の島々で生まれた音楽が奏でられており、そのカリブ海に住む人魚たちが近くの陸にいる人間たちの人種と一致していると仮定するのであれば、黒人の人魚がいるのは自然だという見方もある。「アリエルが黒人でもいいのではないか」と思える根拠は確かにあるのだ。

実写映画版『リトル・マーメイド』の配役の論点は差別だけでなく「原作実写化」にもあるの画像3
『パティシエさんとお嬢さん』(一迅社)第1巻より

 一方で、やはり場合によっては原作を大切にするべく、イメージに合ったキャスティングに留意する必要はある。例えば、日本ではTwitterで大人気を博したマンガ『パティシエさんとお嬢さん』のヒロインはぽっちゃり体型であり、それを含めてパティシエの青年と読者がかわいらしいと心から思えることが魅力だったのだが、実写ドラマ化においてスレンダー体型の岡本夏美が選ばれたことで炎上した(もちろん岡本夏美本人ではなく、キャスティング担当者の責任であるという声が多い)。

実写映画版『リトル・マーメイド』の配役の論点は差別だけでなく「原作実写化」にもあるの画像4
ドラマ『パティシエとお嬢さん』(テレビ神奈川)より

 これは原作のエッセンスをないがしろにするばかりか、画一的なルッキズムを助長することにも繋がりかねないので、批判も致し方がないだろう。

ディズニーの価値観をアップデートする姿勢

 ディズニーは初のアフリカ系のプリンセスを主人公とした『プリンセスと魔法のキス』(2009)を皮切りに、保守的な価値観から脱却しつつ、現代の世相に合わせた作品作りをするようになった。

 近年では多様な人種の他、LGBTQ+のキャラクターや同性愛の描写を積極的に作品内に登場させている。それらがあまりうまくいっていないといった批判意見もあるものの、多様性が尊ばれる時代に合わせ、価値観のアップデートをしようとする姿勢そのものは賞賛されてしかるべきだろう。

 そして、ディズニーは『シンデレラ』(2015)『美女と野獣』(2017)『アラジン』(2019)などと、続々と有名なアニメ映画の実写映画化を手がけており、いずれも原作のエッセンスを大切にしながらも、細かいところで現代の価値観に合わせたアレンジも加えられた作品だった。今回の実写版『リトル・マーメイド』において、新規のキャラクターではなく、これまで愛されてきて、ファンからのイメージも強固なアリエルに、ハリー・ベイリーをキャスティングすることはディズニー側にとっても、挑戦ではあったのだろう。それらの先駆の作品と同じく、原作を大切にしつつ、今の時代に作られる意義のある、愛される作品になることを願っている。

 

 

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/09/17 11:00
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