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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 圧倒的クリエイティビティ
連載「クリティカル・クリティーク VOL.7」

戦慄かなの 「かわいい」の機微を表現する圧倒的クリエイティビティ

戦慄かなのは、2020年代最強のアイドルになり得る可能性を秘めている。

femme fatale「だいしきゅーだいしゅき」

femme fatale「鼓動」

 femme fatale「Cupid」では、「二の腕を引き締めろ/弓を引きエクササイズ/ヴィーナスも飽きれてる/落ちこぼれキューピッド」というパンチラインが歌われる。ラストを飾るのは「戻らない過去は戻さない/ほどけない糸はほどかない/救えない奴は救わない/あたしの未来は変えてみせてよ」というリリック。この意志の強さが、戦慄かなの節だろう。

 彼女が磨く心身の美しさなるものは、誰にも向いていない。射抜く矢はただただ自分自身にのみ捧げられている。美は相対的に生まれるものではなく、ただただ絶対的なものとしてある――私は「Cupid」を聴くたびに、彼女の確固たる思想に触れ、胸が締めつけられるような尊厳とそれを支えるあたたかい体温を感じる。ドロップで紡がれる東洋的な旋律も影響しているのだろう。Perfumeをルーツにもつ戦慄かなのは、中田ヤスタカが試みてきたエレクトロポップに東洋的音階をミックスさせる手法をここで継承しながら、彼女にしか発し得ないメッセージを届けているのだ。

femme fatale「Cupid」

 アイドルは本来的に「可愛い」存在で、皆が似通った世界観に陥りがちだからこそ、多くのアイドルがすでにある「可愛い」をなぞることに終始している。既視感を回避するためには、「可愛い」に対する圧倒的な解像度が必要になってくるのだ。「可愛い」のきめ細やかな標本を、周囲を巻き込みながら素晴らしいスキルで丁寧に作り編んでいくこと――それらを叶える背景のひとつに、彼女がボーカル表現や身体パフォーマンスにおいてラップやヒップホップ、エレクトロ/EDMといった音楽の幅広いセンス/教養をナチュラルに有している点も挙げられるだろう。かてぃ(Haze)との関係性において、今後ロックミュージックの身体感覚も独自に吸収していくかもしれない。

 本稿では詳しく触れなかったが、ソロ活動で見せる世界観はよりクールで、楽曲も一層ハイブロウだ。このほとばしる才能を、見過ごすわけにはいかない。戦慄かなのは、2020年代最強のアイドルになり得る可能性を秘めている。彼女にしかできない「可愛い」の差異の体系化は、まだ数ページが始まったばかりだ。

※過去の連載はこちら

 

   

つやちゃん(文筆家/ライター)

文筆家/ライター。ヒップホップやラップミュージックを中心に、さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆。雑誌やウェブメディアへの寄稿をはじめ、アーティストのインタビューも多数。初の著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)が1月28日に発売されたばかり。

Twitter:@shadow0918

つやちゃん

最終更新:2022/09/10 20:00
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