「八潮秘宝館」オーナー兵頭喜貴×都築響一 たまたま、それがラブドールだっただけ
#映画 #カルチャー #インタビュー #ラブドール
埼玉県・八潮市の住宅街に、日本列島屈指のディープスポットが存在する──その名も、「八潮秘宝館」。オーナー・兵頭喜貴氏が自宅を改装して、自慢のラブドールたちを“珍”列する愛と性のミュージアムだ。
なぜ、兵頭氏はこれほどまでラブドールに魅せられたのか。兵頭氏とラブドールたちの日々を記録したドキュメンタリー映画『HYODO 八潮秘宝館ラブドール戦記』の公開を記念して、兵頭氏と、編集者・写真家の都築響一氏の対談を収録した。
●兵頭 喜貴(ひょうどう・よしたか)/写真家・模造人体愛好家
1973年、愛媛県生まれ。日本大学大学院 芸術学研究科修了。2002年から等身大の人形を被写体に廃墟などで撮影した作品の個展を開催。2016年にはパリの国立民族博物館ケ・ブランリ美術館にて、ラブドールとの披露宴を記録した映像が上映された。2015年から「八潮秘宝館」を一般公開中。詳しい情報は公式ブログにて。
●都築 響一(つづき・きょういち)/編集者・写真家
1956年、東京都生まれ。76年から86年まで雑誌「POPEYE」「BRUTUS」(マガジンハウス)編集部に所属。東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』(京都書院、1993年)を刊行。現代美術、建築、写真、デザインなどの分野で執筆活動、書籍編集を続けている。『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で第23回・木村伊兵衛賞受賞し、現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続行中である。
ラブドールとのセックスムービーに「あ、ただのコレクターじゃないな」
ーー兵頭さんと都築さんは、秘宝館やラブドールという共通点があって、前から親交があるんですよね。
都築響一(以下、都築):出会ってから、もう何年くらいでしたっけ。
兵頭喜貴(以下、兵頭):都築さんが『東京右半分』(※1)を出したときの展示会が初めてだったと思います。そこで都築さんに声をかけてもらったんですよ。だから、もうかれこれ10年くらい前になるかな。
(※1)『東京右半分』(筑摩書房、2012年):都築響一著。東京の右半分、いわゆる下町のマニアックでディープなお店を紹介した書籍。ふんどしパブ、地元プロレス、昭和キャバレー、健康ランドのほか、ラブドールのメッカ・オリエント工業(=後述)も登場。
都築:そうそう、『東京右半分』を作ったときに、浅草かどこかで写真展を開いたんですよね。ラブドール生産工場の写真を飾ったんだけど、それをやけに熱心に見てる人がいて。あまりに熱心だから「これはラブドールといって……」って話しかけたら、「いや、持ってますから」って返された(笑)。それが兵頭くんだったんですよね。それから、自宅がラブドールだらけですごいことになってると聞いて、見に行かせてもらったりして。
兵頭:僕は若い頃から都築さんを存じ上げてましたから。『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(※2)も読んでいたけど、立ち読みしただけで、買ってはいないんです。いつかこの人と同じ土俵に乗ってやろうって思ってたから、絶対に買わなかった(笑)。
(※2)『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(アスペクト、1996年):都築響一著。日本全国のB級スポット・珍スポットを写真と文章で紹介した大型本。のちに筑摩書房から文庫化。
都築:そうだったんだ(笑)。
兵頭:一昔前は、新宿より西側の中央線沿線がサブカルやアングラの街って言われていましたよね。僕も高円寺に6年くらい住んでいたんだけど、あんまり好きになれなくて。そこでいろいろあって、亀有の新宿(にいじゅく)という街に引っ越したんです。都築さんの『東京右半分』にも、サブカルの人間が西側から東側に流れ始めたというふうに書いてあったけど、僕はそれより前から動いてたんですよ。だから、「あ、ついに俺も追われる側になったのか」と内心で思っていました。
都築:新宿もいい場所でしたよね。街の雰囲気が兵藤くんに合っているというか、どことなく不思議な感じがしてね。
兵頭:土地が安くて、オリエント工業(※3)の工場も近かったですし。その後、またいろいろあって、2015年に八潮の破格中古物件を買って、今に至ります。都築さんは「八潮秘宝館」にも3回くらい来ていただきましたよね。
(※3)「オリエント工業」:東京都台東区にある、日本で一番有名なラブドールの製造会社。国内工場で製造・販売の安心品質。創業は1977年。Twitter:(@PR_orientdoll)
都築:「八潮秘宝館」には4、5回は行ったんじゃないですかね。八潮の前に、葛飾でも同じような秘宝館を開いていたときのこともよく覚えてますよ。
ーー今回の映画のロケ地にもなっていましたが、兵頭さんの「八潮秘宝館」は独特の雰囲気で、ラブドールたちは圧巻ですよね。
都築:僕は好きな空間を作りたいとか、モノを収集するとか、そういったことには興味がないんだよね。個人で倉庫を借りてモノを保管していたりもするけど、それは取材先の秘宝館でこのままだと処分されちゃうって展示物を引き取ったり、不況に喘ぐアーティストの力に少しでもなりたくて作品を買い取ったりしたモノで、何かこだわりがあって収集しているわけではないんです。コレクションではなくて、サルベージとか、保存活動に近いですね。でも、兵頭くんは、自分の世界を作りたいからラブドールを集めてるわけでしょ。
兵頭:実は僕も、最近は救出活動に近くなってきているところもあって……。「(ラブドールを)引き取ってください、買い取ってください」と相談されることが増えたんです。コロナ禍になってからは、とくに「買い取ってください」が多くなりましたね。
都築:だから、兵頭くんはいわゆる“普通のコレクター”じゃないんですよね。お金が許す範囲内で、自分の好きなモノだけを選んで集めて楽しんで……ってわけじゃないでしょ?
兵頭:違いますね。
都築:そもそも秘宝館って、普通はただの商業施設ですからね。観光客を呼び込んで入場料をもらうのが目的だから、個人のエッチなコレクションを見せるのとはちょっと違う。
兵頭:秘宝館も、元祖にはそういうオーナーの個人的な要素もあったのかもしれません。でも、それがヒットしてお客さんがたくさん来るもんだから、儲けるために真似するところが増えていった。そこに趣味要素はほとんどないですね。
都築:だから、兵頭くんの「八潮秘宝館」は普通の秘宝館とは違うよね。
兵頭:そうですね。勝手に秘宝館と自称してるけど、実は全然違うんです(笑)。
都築:僕が兵頭くんのことをおもしろいなって思ったのは、ただ“ラブドールを集めている人だから”ではないんです。収集の対象がちょっとめずらしいだけで、好きなモノを集めて自分の空間を作っている人は、ほかにもたくさんいますから。
兵頭くんがほかの人とはちょっと違うなと思ったのは……いつだっけ、板橋のボロボロの一軒家で作品の展示会をやってて、それを見に行ったとき。地下室の暗がりにブラウン管のテレビが置いてあって、兵頭くんが汚くて薄暗い部屋でラブドールとセックスしてる映像が流れてたんです。セックスのためにラブドールを買うのは普通だけど、それを展示の対象にしちゃったわけだから、一瞬で「あ、ただのコレクターじゃないな」って思いましたよ。
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