玉木宏が過去最高に恐ろしい映画『この子は邪悪』の魅力
#ヒナタカ
玉木宏らしい魅力に満ちているからこその恐ろしさ
そして、一家の父親を演じる玉木宏が本気で怖いことが、『この子は邪悪』の大きな見所にもなっていた。何しろ、玉木宏というその人が、独特の声や佇まいから、信頼したくなる魅力を持っている方だ。おかげで、劇中で「絶対にヤバいことをしている」はずなのに、玉木宏のパワーで「安心」してしまいそうになるのが、むしろ恐ろしい。
しかも、玉木宏は公式サイトで「私が演じたのは何の変哲もない、妻や子ども、家族に対して愛情深い男です」というコメントを残している。そうなのだ、劇中ではその父親は、確かに家族への愛情がほぼ全ての行動原理になっている、本当にどこにでもいる普通の男と言ってもいい面を持っており、その通りの役を玉木宏は演じ切っている。
だが、その家族の愛情があってこそ、平然と狂気的な行動もする様がとてつもなく怖い。「善人にしか見えない玉木宏の印象」を生かした「間違った言動さえも玉木宏の魅力で上書き」するような、最高に最悪な(超褒めている)玉木宏のキャスティングだったのだ。
さらに、周りを不安な空気にさせてしまう母親役の桜井ユキ、少し危うさがあるが頼れる少年役の大西流星も、やはりこれ以上のないキャスティングかつ、求められる期待に全力をもって応えていたのは間違いない。これら役者陣による演技合戦も堪能できる、良い意味でこの世の地獄のようなクライマックスも楽しみにしてほしい。
4年に渡るオリジナル企画のブラッシュアップ
前述した通り、本作は「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」の準グランプリ作。元々は「事故で失った子どもの記憶を人形に入れた父親を描いた」脚本だったそうだが、本格的な制作に向けてプロデューサー陣の意見を取り入れつつ、「喋る人形が登場しない家族の物語」として生まれ変わることになり、さらに4年間に渡る改稿を重ねていったという。
監督・脚本を手がけた片岡翔は、『鬼灯さん家のアネキ』(2014)『町田くんの世界』(2019)『ノイズ』(2022)など、続々とマンガの実写映画化作品の脚本も手がけており、そのどれもが原作のエッセンスを大切にした上での、映画化のための工夫やアレンジが素晴らしかった。
対して今回の『この子は邪悪』は原作のないオリジナルの企画であり、自身が監督も務めているからこそ、「全力を出し切る」ほどのブラッシュアップがあったことは間違いない。『ノイズ』のときも衝撃を与えてくれたが、今回の『この子は邪悪』も後述する、意地の悪すぎる見事な伏線回収がされたりするのだから。
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