迷宮に迷い込んだ女性を追う映画『彼女のいない部屋』と『Zola ゾラ』の魅力
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『Zola ゾラ』:Twitter投稿を映画化した恐ろしくて猥雑な「ほぼ実話」
『Zola ゾラ』は「SNSの投稿を原作としたほぼ実話」だ。デトロイトの一般女性がTwitterに投稿した計148のツイートを元に映画化された作品であり、『ムーンライト』(2016)や『ミッドサマー』(2019)などの話題作を続々と送り出すスタジオ「A24」らしい、かなりエッジの効いた作風となっていた。
内容はウェイトレス兼ストリッパーの主人公が、意気投合した女性に「ダンスで大金を稼ぐ旅に出よう!」と誘われ戸惑いながらも付き合うが、それは悪夢のような48時間の始まりだった……というものだ。かなり猥雑な会話劇が続き、直接的な性描写もあるため、R18+という高いレーティングに大いに納得できる。現実に偏在している「落とし穴」に誘いこまれたような恐ろしさは、ほぼほぼホラー映画と言ってもいいほどだった。
だが、語り口は軽妙かつポップで、多分にユーモアも込められていて、事実だけを取り上げれば最悪な出来事が続いているはずなのに、良い意味で深刻さには欠けているようにも思えてくる。さらには時折、SNSの「通知音」が聞こえてきたりもする。つまりは「これはSNSの投稿ですよ」と教えてくれるような演出がされているのだ。
ともすれば、本作はSNSから受ける印象を上手く映像化した作品とも言える。初めから「このビッチとなぜ仲違いしたのか、その話を聞きたい?」という下世話だが興味を引く語り口であるし、物語そのものも淫らな出来事を主体とした失敗談であるし、「嘘なのか本当かどうかもわからない」印象さえも「ああ、Twitterでとんでもない体験談を読んでいる感じだ」と思わせてくれるのだ。
それでいて、16ミリフィルムで撮影された映像はエネルギッシュで、グイグイと惹きつける力がある。愛憎入り混じる友情の物語としてみることもできるし、男性の支配が当たり前の世界で、女性の主体性や自己実現や決断力を讃える志の高い内容として捉えることもできるだろう。単に下世話で猥雑な内容だと切り捨てられない、そもそも言語化ができないような、独自の魅力に満ちた内容でもあるのだ。
そして、『彼女のいない部屋』と『Zola ゾラ』でさらに共通しているのは、ひどい出来事に遭遇した女性が、そこから歩き出す物語であることだろう。ささいなきっかけによって、どうしようもない悲劇に見舞われることもあるが、ずっとそのままでいるわけがない、いつかはきっと良い方向へとつながっていく……そんな希望も感じさせるのだ。ともすれば、両者とも極端な内容のようでいて、実は普遍的かつ優しいメッセージを込めた作品と言っていいだろう。
映画『C.R.A.Z.Y.』同性愛嫌悪の問題を描く「一生に一本の映画」を作り上げた監督が遺した優しさとは
7月29日より映画『C.R.A.Z.Y.』が公開されている。 本作を手がけたジャン=マルク・ヴァレ監督は『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)や『雨の日は会えない...『彼女のいない部屋』
原題:SERRE MOI FORT /英語題:HOLD ME TIGHT
監督: マチュー・アマルリック|出演:ヴィッキー・クリープス(『ファントム・スレッド』『オールド』)、アリエ・ワルトアルテ(『Girl/ガール』)
2021年|フランス|97分|DCP|1:1.85 ビスタサイズ|5.1ch|カラー|一般 G
日本語字幕:横井和子 配給:ムヴィオラ
(C) 2021 – LES FILMS DU POISSON – GAUMONT – ARTE FRANCE CINEMA – LUPA FILM
『Zola ゾラ』
監督:ジャニクサ・ブラヴォー『アトランタ』
撮影:アリ・ウェグナー『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
音楽:ミカ・レヴィ(ミカチュー)『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』
出演:テイラー・ペイジ『マ・レイニーのブラックボトム』、ライリー・キーオ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ほか
2021年/アメリカ/英語/86分/ビスタ/カラー/5.1ch /原題:Zola/ R18+ /日本語字幕:石田泰子/配給:トランスフォーマー
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