迷宮に迷い込んだ女性を追う映画『彼女のいない部屋』と『Zola ゾラ』の魅力
#映画 #ヒナタカ
8月26日より『彼女のいない部屋』と『Zola ゾラ』が公開されている。この2作は本来まったく関連のない映画であるが、迷宮(あるいは悪夢)に迷い込んだ女性の物語という意味では共通している。具体的なそれぞれの魅力を紹介しよう。
『彼女のいない部屋』:ネタバレ厳禁かつ説明最小限のミステリー
『彼女のいない部屋』の大きな特徴は「情報の制限」だ。何しろ本国フランスの劇場公開前に明かされたストーリーは「家出をした女性の物語、のようだ」という1文のみ。そして、マチュー・アマルリック監督は「彼女に実際には何が起きたのか、この映画を見る前の方々には明らかにはなさらないでください」とメッセージを送っている。つまりは「ネタバレ厳禁」なミステリーなのだ。
そのネタバレ厳禁の触れ込みだけでなく、映画本編も良い意味で「はっきりとしない」からこそ興味を引く内容となっている。初めこそ「女性が2人の子どもと夫を残して車でどこかへ旅立っていて、何かの不満があって家出をしたのだろうか……?」とシンプルに彼女の気持ちを考えながら旅路を追う気持ちで観ているのだが、時おり「あれ?」「どういうことだ?」と良い意味で混乱させるシーンがいくつも挿入される。時系列もバラバラで、現実かどうかもわからない、ミステリアスな映像が続く内容となっている。
フックとなるのは、序盤の「雪山」のシーンだ。そこから導き出される「真実」は、その後にヒントが散りばめられているおかげもあって、早めに気づく方も多いだろう。だが、本作は「衝撃のラスト!」といったどんでん返し的な種明かしそのものを売りにはしていない。終盤で直面する「信じがたい事態」から、遡って「そうなってしまった」彼女の心情を想像することが、真に重要なことなのだと痛感できるようになっていたのだから。
言ってしまえば、本作は心のバランスを大きく崩してしまった女性の心情を追った物語なのだろう(そうではないと解釈する人もいるだろう)。現実を直視できず、過去の記憶にすがるように思い出すという主人公の心が、そのまま混沌とした映像に表れているようにも思えるのだ。だからこそ、信じがたい事態に遭遇する様がショッキングであるし、(完全な同一視は危険だが)同様の心の病を抱えた方も「そうなのかもしれない」と想像が及ぶようになっていた。
そして、説明やはっきりとした描写が最小限であり、物語の解釈そのものも人によってかなり異なるはず。ともすれば、本作は真実や特殊な構成の意味がわかっても、良い意味で「最後までモヤモヤする」内容である。マチュー監督は「この物語を作り上げた1人の女性について考えながら観客が映画館を出ていくようにしたかった」と語っており、まさにその目論見通りの内容に仕上がったと言っていいだろう。
ちなみに、マチュー監督は影響を受けた(または参考にした)作品として『雨のなかの女』(1969)や『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)などを挙げており、その中にピクサー映画『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)や『リメンバー・ミー』(2017)もあるというのも面白い。「忘れられない記憶」という点では、確かに『彼女のいない部屋』との共通点も見つけられるだろう。
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