就職希望の学生は破門も……迫る「音大崩壊」の内情と解決法
#音楽大学
音大改革のネックは経営陣や教授陣
――外国の音楽大学ではどうなのでしょうか。
大内 僕は海外事情は詳しくないですけれども、欧米の音大に詳しい方から話を聞くと、基本的には演奏家になることを前提にした「職業教育」という意味合いがはっきりしている、と。また、アメリカの大学の中には専攻を2つ取れて、例えば音楽と工学の学位が取れるような大学もあるそうです。その先を見越しているのでしょうね。実際、欧米では卒業した後で演奏する場所自体が日本と比べてはるかに多い。一方、日本は卒業しても演奏家として活躍できる場所は非常に限られており、専門家育成の職業教育機関という位置づけであるとは言えません。日本ではごくわずかなトップクラスの人だけがプロの演奏家になります。
――洗足学園音楽大学はジャズコース、ミュージカルコース、ミュージカル&ロックコース、バレエコース、声優アニメソングコース、ダンスコースを設置していき、今では学生の過半数がクラシック以外を学んでいる。また、昭和音楽大学はアートマネジメント教育と企業就職に力を入れたり、ピアノ学科でも演奏コース以外に指導コースを作って音楽教室の先生などを目指す教育を充実させていたりする。こういった大学は人気があると本に書かれていました。
大内 トータルとしての音大生は減っているけれども、学生数を増やしているところもある。僕が勤める名古屋芸大も増えています。権限を教授会から学長に移したことで改革に成功したんですね。大学改革においては教授会に権限を与えればいいかというと、必ずしもそうではない。誰がリーダーシップを取るかによって、改革できるか阻止されるかが分かれてきます。「学生目線を大切にした教育改革を行えば、音大も復権できる」と感じました。クラシックだけでなくポピュラー音楽も学べる、楽器の修理を職とすることを見すえて複数の楽器の扱いを学ぶ、あるいはYouTubeでの配信の仕方も身につくなど、時流に合わせた改革が必要なのだと思います。
――どこが改革のボトルネックになっていることが多いのでしょうか。
大内 やはり今の立場を守りたい方々、言ってしまえば経営陣や教授陣なのかな、と。ただでさえ学生が減っていていますから、「今いる学生を確保したい。できる限り大学院まで進学させたい」という発想になります。音楽に限った話ではありませんが、教授にもなるとそこから領域を広げるよりは、自分のテリトリーをいかに守るかが優先されがちです。
――本の帯に「5年後にヤバい音大、生き残る音大はどこだ?」というフレーズがありましたが、変革のタイムリミットはもう10年、20年もない?
大内 という気はします。銀行時代の経験から言うと、組織は悪くなり始めるとスピードが早いですからね。各大学の公表された財務諸表と学生数のデータを照らし合わせると、構造的に赤字になっているところが少なくありません。学生の減少は経営に直結しますから、時間との勝負ではないでしょうか。
特に僕が危惧しているのは、地方の音大です。その地域の重要な音楽教育の拠点になっている場合が多いですから。そこがなくなると、地域の音楽文化にとっては大きな損失です。ですから、地方の音大はどう生き残りを図っていけばいいのか、そこを本でもう少し書けばよかったと反省しています。いずれにしても、日本の音楽大学の頂点である「東京芸大に倣え」という従来のやり方を変えて、学生の現実的な将来を見すえて、さまざまな学生のニーズに対応しているところはきちんと支持されています。各大学の特色を活かしつつ、方向性を定めて進むことが急務だと思います。
大内孝夫(おおうち・たかお)
名古屋芸術大学芸術学部教授。みずほ銀行支店長、銀行等保有株式取得機構運営企画室長(常勤トップ)などを歴任後、2020年4月より現職。全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)評議員/キャリア支援室長/組織運営委員/ピアノ教室経営相談担当、ドラッカー学会会員、日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『「音大卒」は武器になる』『「音大卒」の戦い方』(すべてヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)、『AI時代最強の子育て戦略「ピアノ習ってます」は武器になる』『そうだ! 音楽教室に行こう』(音楽之友社)ほか。
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