阿部寛がエンタメしながら“コンプラ時代の変化”を示した映画『異動辞令は音楽隊!』
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「大コンプラ時代」に捜査一筋30年の鬼刑事は――私たちは、どう出る?
コンプライアンスを重視する時代の変化の波によって、昭和の刑事ドラマのような強引な捜査をすることができない。例え、相手が犯人だと確信していてもだ。主人公の成瀬(阿部寛)は、「コンプライアンスの遵守」と口うるさい上司と、何かとぶつかり合っていた。
成瀬にとってみれば、自分が長年の経験から培ってきたものにダメ出しを喰らうような思いだろう。コンプラに配慮するあまりに取りこぼされた犯罪者によって、新たな犠牲者が生まれるかもしれない。しかしその一方で、ムチャな捜査による弊害、たとえば冤罪は、減っているのかもしれない。どの立場で考えるか、どこに焦点を当てるかで、物事の見え方は全く異なってくるものだ。
そして、いつの世も「昔はこうだった」は通用しない。「今時の若い者は」と言っている大人も、かつては「今時の若い者は」と言われてきた。携帯なんて、スマホなんて……と言ってきた老人が、スマホやタブレットを手放せなくなっていたりもする。人間というのは、常に“現時点”を中心に物事を考えているだけで、結局はそんなものなのだ。
耳馴染みのない「コンプラ」という横文字に、惑わされたり、身構えたりするかもしれないが、実は人間というのは、意識的にせよ無意識的にせよ、常に時代に合わせて価値観や概念をアップデートしてきているのだ。
今作のように、犯罪捜査の最前線で活躍していたはずの成瀬が、田舎の“ポンコツ部署”に飛ばされることになり、最初は拒絶していながらも、その中にある大切なものに気付く――こんな設定の映画やドラマは山ほどあるし、鉄板ネタではある。それらがいったい何を伝えたいかというと、「視点を変える」ということだ。
警察という組織の中の音楽隊は、これまであまりスポットが当たるものではなかった。観客にとっても、これは見ていなかった、見ようともしなかった視点のメタファーともいえる。大小あるかもしれないが、一人ひとりに役割があり、それが組み合わさって組織――“世の中”が構築されているという、私たちが見失いがちな、“当たり前”なことに気づかせてくれる。
態度を頑なにして時代に背いても、世間はどんどん離れていってしまう。拒絶し続けるのではなく、時には視点を変えて受け入れることで、寄り添うことで、見えてくるものもあるということだ。
映画『異動辞令は音楽隊!』
8月26日(金)全国ロードショー
配給:ギャガ
出演:阿部寛、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、見上愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向芳、六平直政、光石 研 / 倍賞美津子
原案・脚本・監督:内田英治(『ミッドナイトスワン』)
主題歌:「Choral A」Official髭男dism
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