ハチミツ二郎、現役の“劇場トリ芸人”は「伝説の1日」をどう見たか?
#ハチミツ二郎
優しい人しかトップにはなれない
――最近、さらば青春の光やラランドのように、事務所経営に関わる芸人が増えてきました。その元祖としてトンパチ・プロ(90年代後半、ハチミツ二郎が社長を務めた芸能事務所。2001年に解散)を思い出すんです。
ハチミツ 俺たちは早すぎましたね。でも、あれは会社経営というより、チケットぴあとやりとりしたり、劇場を借りたりするために必要があってつくっただけで、ほかに芸能の仕事が舞い込むわけでもなかったので。当時はチケット代が安かったから、儲かりもしないですよ。赤字にはならなくても、売り上げで次の会場を借りての繰り返しだった。
――もう一回、社長はやりたくない?
ハチミツ やりたくないですね。インディーズとはいえ、社長なんて嫌われるのが仕事ですから。それを23歳で味わったから、どうせやるならアイドル事務所のような違う部門の社長をやりたい。売れない芸人って、不満が事務所に向いてくるんですよ。ギャラもピンハネしないで100%渡しているから、文句を言われる筋合いなんてないのに。そこは地下芸人ほど、ワガママですから。この本を読んだらわかるように、優しい人しかトップをとれないんですよ。それは絶対に。人の足を引っ張っているヤツは自分も引っ張られて、ハシゴをはずされて、●●●●みたいにどこかに消えちゃう。先輩はきついタイプと優しいタイプの2通りあって、俺の中ではスターになるほど優しかったな。そこで江頭さんの名前を出すと、怒られちゃいますけど。
――自分自身は昔と比べて優しくなった?
ハチミツ 昔から後輩には良くしてやろうとは思ってましたよ。トンパチ・プロのときも、俺より若いU字工事、猫ひろし、相方には「メジャーにいかなきゃダメだぞ。地下芸人についていくなよ」と言ってましたね。若い芽を潰すのは、業界そのものを潰すようなもんですからね。時間がかかっても、あとからお礼言われればいいや、みたいなもんで。
――ニューヨークや空気階段など、直接かわいがったわけではない後輩芸人も、東京ダイナマイトの薫陶を受けたと公言してますね。
ハチミツ オズワルドや錦鯉の渡辺くんも、「東京ダイナマイトを見て勉強した」って勝手に言ってくれてますね。俺としては、俺らの形をどんどんパクってくれてかまわないんですよ。「この人が僕らの元祖です」と大勝軒のオヤジみたいに紹介してくれればいい。最終的には俺が頭に大きいタオル巻くから。
――下の世代に対して不満はないですか? たとえば品行方正すぎるとか。
ハチミツ 師匠の話を聞いていると「楽屋で花札やっていたら警察に踏み込まれて、あいつだけ逃げていった」とか、嬉しそうにしゃべるんですよね。でもそれは悪いことした自慢じゃなくて「こんな面白いことあったんだぜ」という楽屋話のはずだったのに、それもどんどんダメになってしまった。それはそういう時代になったということかな……。
だから俺たちのネタを見て育ったニューヨークや空気階段が、今の時代に安心して届けられるように調えたネタをやってくれればいい。俺たちはぎりぎりコンプライアンスの外にいようとするので。なんせ今、☓☓☓☓のネタつくってますから。
――いいですねえ。
ハチミツ ここ数年、単独のコンセプトが「行こうぜ コンプライアンスの向こうへ」なんですよ。DVDにもしてないし、YouTubeにも上げないし、次の単独は配信もしないつもり。俺たちは金を払って見に来てくれた人だけを笑かします。
――今、ハチミツイズムをもっとも色濃く継いでいる後輩は誰ですか?
ハチミツ それは「二郎会」直属の(サンドウィッチマン)伊達ちゃんですよ。でも、本人に「これ以上差をつけるな」と言ったぐらい、追い抜いていっちゃったから。
――確かに最初はハチミツ二郎のフォロワーという雰囲気がありました。
ハチミツ 2005年ごろの自分の単独を今見ると、俺の口調が伊達ちゃんに見えますからね。それで、チンピラ口調のツッコミを俺が辞めたんですよ。今はあまりにも差がついてしまって、「俺が先なんだ」と娘に言っても信じてくれない。
「伝説の1日」で感心だけしてるやつは、そこで終わり
――お笑いの賞レースにまだ出たいという気持ちはありますか?
ハチミツ 出られるのがあったら出たいですよ。やるなら漫才かな。もともとコントから入ってるから「キングオブコント」も興味はあります。でも優勝するなら1年間はコントだけやらないとムリだろうし、劇場のトリをやってると、どうしても漫才になっちゃうんで……。昔、『M-1』か『THE MANZAI』と、『キングオブコント』の両方にエントリーしていて、それをやめて片方に絞ったら決勝に出られたんです。俺たちの時代は二刀流がいなかったじゃないですか。YouTubeもないし、先輩のネタも見てなかったし。当時から先輩のネタを見まくってた同期は同じネタをやってて、「ずりーなこいつは。そりゃウケるだろ」と後から気づきましたけど。でも今は学べるものが多いから、これから先は大谷みたいな二刀流が出てくるかもしれない。
――漫才ということでは、『伝説の一日』はどうでしたか。
ハチミツ 20周年ライブのタイトルを『伝説の30日』にしたのは、もちろんダウンタウンさんの漫才を見たからで、俺たちもアドリブ的なやりとりでどれだけできるだろう? と、フリーで倍の時間やることにしたんです。1時間やるつもりだったのが、ライブ全体の枠が1時間しかなくてゲストもいたので、50分弱になりました。ただ、『伝説の一日』の漫才を見て、みんな「すごい」という感想になっていたじゃないですか。俺に関しては、そうは思わなかったです。
――おお~。
ハチミツ これは松本さんの前で言ってもいい。もちろん俺もファンに戻ったし、レジェンドを見られる贅沢な30分でしたよ。でも現役の漫才師が打ちひしがれていたら、そいつはそこで終わりですよ。コントやってる芸人やネタやってない芸人がワーッとなるのはかまわないけれど、今劇場のトリで戦っている芸人が感心だけしてたらダメかなと思う。
――松本さんもツイッターで「こんなことを言う人がいます。/31年ぶりの漫才より毎日のように劇場で漫才してるコンビのほうが凄い。/あたりまえじゃ!」とつぶやいてましたもんね。
こんなことを言う人がいます。
31年ぶりの漫才より毎日のように劇場で漫才してるコンビのほうが凄い。
あたりまえじゃ!
— 松本人志@matsu_bouzu) April 4, 2022
ハチミツ そこは松本さんが一番分かっているんですよね。松本イズムを引き継いでいる人がそれを発信しないと、松本さんに勝てる人が一人もいなくなっちゃう。(ウーマンラッシュアワー)村本が言ってるのはちょっと角度違うんだよな(笑)。
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■Information
『マイ・ウェイ』
著:ハチミツ二郎、田崎健太/刊行:双葉社
https://www.futabasha.co.jp/book/97845753171900000000?type=1
■プロフィール
ハチミツ二郎
1974年生まれ、岡山県出身。2001年、松田大輔と東京ダイナマイト結成。東京NSC1期生。『M-1グランプリ』2004年、2009年、『THE MANAI』2013年決勝進出。
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