ハチミツ二郎、現役の“劇場トリ芸人”は「伝説の1日」をどう見たか?
#ハチミツ二郎
多くの芸人からリスペクトを集める東京ダイナマイト・ハチミツ二郎が、自らの手でその芸人人生を書き綴った自伝『マイ・ウェイ』を刊行した。プライベートも含めて赤裸々に記した同書の中では、所属事務所を転々としてきた芸歴についても振り返っている。自前の芸能事務所から始まり、劇場のトリをつとめる漫才師になるまでの、大いなる艱難辛苦があった。東京NSC1期の同期であり、デビュー当時からハチミツ二郎を知るライターが、あらためてその紆余曲折を聞く。
「本当のことだから文句は出てこないんじゃないですか」
――自伝『マイ・ウェイ』(双葉社)を読んだ後、いろいろ気になって、漫才を見るためルミネtheよしもとに駆けつけました。杖をつきながらの漫才でしたが、コンディションは良さそうでしたね。
ハチミツ 全然大丈夫ですね。こないだ袖から舞台を見てくれたカウス師匠が、「杖、邪魔になってへんな」と言ってくれて。内田裕也と同じ杖を買ったんで、これを活かしながら、客が気にならないように漫才やってます。
――東京ダイナマイト20周年特別公演(『伝説の30日』ルミネtheよしもとにて4月30日開催)では、サンドウィッチマン伊達さんを交えて50分漫才に挑戦したとか。体力的にきつくなかったですか?
ハチミツ 終わった後、腰が固まっちゃって、支えられながら舞台袖の階段を下りました。ただ、松田と伊達ちゃんと3人で漫才をやったのは、別にエキシビジョンだったわけじゃないんで。それはこの本を読んでくれれば、意味があったんだとわかると思いますよ。
――自伝は華々しい話が中心かと思いきや、芸人間の確執であったり、だいぶヘビーな部分にも触れていますね。
ハチミツ 現実的にいろいろなことが起きて書かざるをえなくなったというか……。『ザ・ノンフィクション』でカメラ回して追っかけていたら、パート2や3の放送を待っているうちに、違う展開になっていくシリーズみたいな感じですね。俺はドキュメントのつもりだから、ありのままを書きました。きわどい話もあるけど、本当のことだから文句は出てこないんじゃないですか。
地下芸人なんて両方の意味でろくなもんじゃない
――芸人人生が東京NSCに始まり、吉本を離れてインディーズへ、それから事務所を転々としていったのは、振り返ってみてどうでしたか。
ハチミツ よかったかなと思います。外に出て結果が出たのは、同期の品川庄司よりも先に『M-1』決勝にたどりついたことが証明しているわけで。本にも書いた、NSCを仕切っていた社員のT氏にクビにされてなかったら、吉本にちょっと入って芸人を辞めていたかもしれないし、あのときアウトサイダーになったからこそ、今残れているのかもしれない。
――でもインサイダーだったら、別のポジションで活躍していたのでは?
ハチミツ いや、あのときの銀座7丁目劇場だったらそれはないかな……。俺の記憶では、ある先輩がネタやっている間、女子高生のファンが写ルンですを2本ぐらい使って、始まりから終わりまで撮影していたんですよ。あの環境では勝ち抜いてないでしょうねえ。
――心が折れて辞めていた?
ハチミツ かもしれないです。俺が吉本の外を回っている間、だんだん世間がケンコバさんのような芸人を受け入れるようになっていったんですよね。でも当時、芸人仲間が大阪までケンコバさんを見に行ったら、単独以外の出番だと女子が下向いていたみたいですから。
――当時のケンコバさん、山本小鉄漫談とかやってましたもんね。その層には刺さらないでしょうね。
ハチミツ 俺が大阪に行って、ケンコバさんみたいな兄さんが近くにいたら耐えられたかもしれないですけど。そのケンコバさんも、バッファロー吾郎さんに支えられたと思うので。俺からすれば東京の拠り所は『すっとこどっこい』(大川興業が90年代から続けている若手育成のネタライブ)でしたね。東京のライブにいろいろ出た中で、ミーハー系の客が集まるライブは平気で最下位だったのが、『すっとこどっこい』に出れば優勝。江頭さんやハウス加賀谷さんを受け入れている環境では強かった。そこで評価されたというのは、大きかったです。
――今、吉本以外の事務所で活躍していても、NSCを卒業していたり吉本がルーツの芸人も多いですよね。吉本を通過した芸人とそうでない芸人の違いは感じます?
ハチミツ 吉本興業というより、吉本の劇場に出ていたかどうかじゃないですか。俺も最初、吉本というメジャーにふれたから、インディーでもやれた部分はある。プロレスラーでも、新日か全日を経験してからのインディーと、最初からずっとインディーでは違うでしょ。道場だけでもメジャーを通った人間のパワーというのはあるかもしれませんね。まあ、やっぱり吉本はメジャーリーグだとは思いますよ。ここを勝ち抜くのはなかなか大変だし、自分の居場所を確保するのも一苦労なんで。俺たちは劇場では勝ち抜けていても、テレビ的にはなんにも勝ち抜いてないし、劇場に出ていなくてもテレビに出られている芸人もいるし、何も考えてなさそうなやつがポーンと売れたりもするし、そういう幅広さを含めてメジャーだなと思います。
――最近、地下芸人がもてはやされている風潮はどう感じていますか。
ハチミツ 俺らも最初は明らかに地下芸人でしたね。ただ、俺たちは人気があって、常に会場を満員にしながらやっていたんで。結局、地下芸人なんて両方の意味でろくなもんじゃないですよ。芸人としての腕もないし、人としてもダメ。地下芸人に憧れるヤツなんていないし、気づいたら地下芸人になっているだけで、せめて売れる気だけは失わずに、「いつかは見てろよ」と思っていてほしいですけどね。たまに根性だけメジャーに勝っている地下芸人もいるかな。どのみち、関わらないほうがいいのは確かです。
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