水野敬也『夢をかなえるゾウ』最新作の主人公は夢がない!
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「自己啓発エンタメ小説の金字塔!」と銘打たれたシリーズ累計460万部の『夢をかなえるゾウ』(文響社)。関西弁のガネーシャが夢に悩める主人公に対してギャグを言ってはスベり倒し、しょうもないことで怒り散らかし、振り回しながらも、数々の成功者を導いてきたという「教え」を説く。そして、主人公は半信半疑ながらもそれを実行していくことで、夢に向かって一歩ずつ進んでいく、という物語だ。
最新刊『夢をかなえるゾウ0(ゼロ)』の主人公は「夢がない」。夢がないという若者が増えていると言われる昨今だが、「自己啓発本なんか一冊も読んだことがない」というアンチ意識高い系にも読んでほしい、と著者の水野敬也氏は言う。一体どういうことなのか?
自己肯定感の低さには自信がある
――『夢ゾウ』シリーズは、1はストレートに「夢をかなえる」話ですが、2は最初に目指していた夢とは違うことで成功する話、3は仕事や恋愛のきれいごとじゃない部分に突っ込んでいく話、4は「夢を手放す」という話、今回の0は「夢、そもそもないんですけど」という人の話です。素直に「なりたいものになれる」みたいな話は最初だけで、自己啓発本としてはわりと変化球ですよね?
水野 1巻を出したときには、続篇は考えていませんでした。すべてを込めるつもりで書きましたから。でも、いろいろな人から感想をもらううちに「やれていなかったことがある」と思うようになり、続巻を書いてきました。今回は「夢をかなえる以前に、夢がそもそもない人っているよね」という根本的な問いを扱っています。
ただ、僕の人生では「夢がない」状態がなかったんですね。「夢はあるけど実力がない」みたいなところで悩んできた。だから、そういう悩みがあることはわかっていつつも、そんな主人公は書けないとずっと思っていたんです。だけど、「自己肯定感」という言葉が広まり、「自己肯定感がないと夢を持ちづらい」という認識が広まる中で、「そうか、俺は『夢がない』という状態は経験したことがないけど、自己肯定感の低さに関しては自信があるぞ! 自信がないヤツの話なら書ける!」(笑)ということで、「夢を見つける」というエピソード0的なナンバリングにして刊行しました。
――『夢ゾウ』って自己啓発本を素直に読めない、疑って見るタイプの人の気持ちも汲んで書いていますよね?
水野 おっしゃる通りです。このシリーズは、実用書に対して僕が長年感じてきたジレンマを乗り越えたいという気持ちから生まれているんですね。
――というと?
水野 僕は田舎から上京して東京の大学に入るときに、自己啓発書や恋愛指南本を読んで詳細な大学デビューの計画を立てていたんです。でも、自己啓発書って大体「私はこうして成功した」という自慢話なんですよね。「なんでカネ払って自慢話を読まないといけないんだ?」という反発心と、「でも成功したい」というジレンマがあった。恋愛本もそうで、ノウハウは知りたいけど「俺はこうやってセックスした」みたいな下品な話が多い。これ、なんとかならんのか、という想いが長年ありました。
もうひとつ僕の中で大きかったのは、中高が男子校で、女の子と付き合いたいと思いながらも自分が輝ける場所は『スト2』(『ストリートファイター2』。90年代に大流行したカプコンの格闘ゲーム)だった、ということです。ゲームやマンガみたいなエンタメが身近にあり、それにドハマりしながらも、そうすればするほど女の子から遠ざかる、という状況でした。今なら同じゲームが好きな異性と仲良くなるようなことも普通にあるでしょうけど、90年代には分断されていて。だから、エンタメに夢中になりながらも、それだけで生きることには行き詰まりを感じていた。と同時に、実用書の自慢話と下品さにも違和感を抱き……そういう経験がこのシリーズにつながっていると思います。
例えば、シリーズを通して出てくる神様のガネーシャには毒舌なところがあって、偉人をバカにしているわけです。「ああ、発明バカのエジソンね」「ニュートン、あいつ、俺がリンゴ落としたったけど全然気づかんから、何回もやってやったわ」と。普通、自慢話に対しては外からツッコミが入るはずなんですよ。『夢をかなえるゾウ』は、それが入らない自己啓発本に対するアンチテーゼなんです。
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